第11回シヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティションにおいて「世界にただひとつの印鑑」で準グランプリを獲得した明間大樹さんに、デジタルファブリケーションを生かしたアイデアとそれを形にするまでのプロセスについて話をうかがった。

 


明間大樹

 

――明間さんはグラフィックデザイナーとうかがいました。お仕事でプロダクトに関わることもあるのですか?

 

今はグラフィックデザインの仕事をしていますが、大学ではグラフィックはまったくやっていないんです。もともとはグラフィック志望だったのですが、入ってみたら立体制作が面白くなってしまって。発泡スチロールを削ったり、現代彫刻みたいなものをつくったり、4年間ずっとそんなことをやっていて、結局、卒業制作もプロダクトでした。グラフィックの仕事を始めたのは、卒業してしばらく経ってからです。

 

――では今回のコンペは、久しぶりの立体制作だったわけですね。応募のきっかけは何だったのですか?

 

一緒に仕事をしている仲間が、こういうコンペがあるよと教えてくれたんです。僕は面倒くさがりで、あまり活動的ではないので(笑)、行動を促す意味もあったのかもしれません。見たら10年ぶりの再開だというし、昔プロダクトをかじったことも思い出して、じゃあちょっとやってみようかなと。審査員が錚々たる方ばかりでしたから、自分の力を試すいい機会かなと思ったんです。やってみたら、やっぱりプロダクトは面白いなと。熱が再燃しました。

 


第11回シヤチハタ・ニュープロダクト・デザインコンペテイション受賞作品展にて「世界にただひとつの印鑑」展示風景

 

――「世界にただひとつの印鑑」は、自分だけの形がつくれて素材も選べることと、デザインの美しさが審査員の評価を得ました。作品のアイデアは何から得たのですか?

 

印鑑を押すのが苦手なんです。銀行で3回くらいやり直したこともあるほど(笑)。滑るし、小さいし、なんか上手くいかないんですよね。それで、自分の握り方に合った持ちやすい形にできたらいいんじゃないかなと。調べてみたら、持ち手をカスタマイズできるサービスはほとんどなく、できたとしても用意されたいくつかの形の中から選ぶぐらいで、ここまで自由に形を変えられて素材も選べるものはなかったので、ひょっとしたらこれはいいかもと思いました。

 

――持つだけで天地がわかるので、間違えなくていいですね。また、色々な素材を準備してシーンによって使い分けてもよさそうです。苦労した点はどこですか?

 

3Dプリンタやグラインドマシンを使うのも初めてだったので、失敗もしましたし、毎日発見の連続でした。3Dプリンタは樹脂を熱で溶かし、積層で立体形状をつくるので、完成してしばらく置いてもまだかなり熱いんですよ。一度、形成途中で重心がずれて形が崩れてしまい、慌てて取り出そうとして火傷しました。まさかここまで熱いとは思わなかったので…。グラインドマシンは座標を取って、その数値に合わせて木や金属など素材の塊から形を削り出していくんですが、形が細いのでドリルが上手く当たらないんです。それで、木の種類によっては削っている途中で破損してしまったことが何回かありました。上手くいかない時は、夢にうなされたりしましたね。毎朝6時頃に起きて仕事の前に作業していたんですが、締め切り過ぎた!どうしよう!とハッとして目が覚める(笑)。そんなことが結構ありました。

 


明間大樹

 

――こだわったところはありますか?

 

コンペですし、プロダクトなので、きれいな形になるよう握り手の曲線を意識しました。意外だったのは、計算して作為的につくらなくても、手に力を入れてしっかり持つと、それだけで割ときれいなフォルムができるんですよ。微調整はしていますが、ベースは自然に持った時の形をそのまま生かしています。

 

――コンペに参加した感想を聞かせてください。

 

参加してよかったと思います。賞をいただけたというのもありますが、初めて挑戦したことが経験として身についたのがよかった。僕が面倒くさがり屋だからかもしれませんが、コンペって出そうと思っても、作品を最後まで仕上げられずに出品まで至らないこともあると思うんです。今回、一生懸命取り組んで最後までやり遂げられて、さらに評価していただけたことは、自分にとって自信になりました。

 

Profile
明間大樹(あけま・だいき)
グラフィックデザイナー
1974年生まれ/東京都在住

 

執筆:杉瀬由希 撮影:池ノ谷侑花(ゆかい)