第11回シヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティションにおいて、「自己QR」でグランプリを獲得した清水邦重さんに、作品の開発の経緯やアイデアの源についてお話をうかがった。

 

 

―― 「自己QR」はアナログとデジタルが見事に融合している点が審査員の高い評価を得ました。このアイデアはどのように思いついたのですか?

 

「まず、印鑑や判子の周辺をいろいろ考えました。判子というのは押すものなので、指に朱肉をつけて押してみたら、当然ですが、あ、指紋がつくなと。指紋は同じものは2つとない、まさに個人のアイデンティティですから、最初は指紋の判子というのもいいかなと思ったんです。でも、それだけじゃ面白みに欠けるので、何かもっと楽しめるものができないかと考えQRコードを思いつきました。アイデンティティという意味では指紋とQRコードは通じるものがあると思いますし、指紋の判子は押すだけですが、QRコードならそこから広がりますから。会社にいるシステム専門のスタッフに意見を聞いたりして、実現可能かどうかも考慮しました」

 

 

――たしかに、使ったその場で完結する作品が多かった中で、「自己QR」はさらにその先に展開がある数少ない作品でした。

 

「以前、仕事で外国人用にコミュニケーションアプリをつくったことがあるんですが、今回も同じように、初めて会った人と楽しめるような判子にしたいと思ったんです。QRコードをかざしてスマホで表示した時に、それが自分のアピールになれば楽しいんじゃないかなと。オフィシャルやプライベートで分けてつくってもいいですし、これからの時期は年賀状に押したりしてもいいですね」

 

――「しるしの価値」というテーマについてはどう感じましたか?

 

「とてもいいテーマだなと思いました。やっぱり一流の方々が考えたんだろうなと思うような、わかりやすいテーマだなと。しるしということ自体はマークであるわけですけど、アイデンティティという言葉で補足されていたので、考えやすい道をつくってくれているように感じました」

 

 

――「自己QR」は持ち手の形が特徴的ですね。持った時の感触も肌になじむ感じがします。デザインでこだわったところを教えてください。

 

「普通の丸い筒状の判子を自分で押すと、必ず曲がっちゃうんですよ。それがいつも気になっていたので、掴みやすくて、まっすぐ、きれいに押せるようにするにはどんな持ち手がいいかなというところからこの持ち手の形を考えました。紙粘土を手で握って、その型どおりにつくっただけなんですが、ゴムをコーティングしているので、しっとりした肌触りになっていると思います。また、できるだけ印圧が均一になるように、持ち手と判面の間にスポンジを入れています」

 

――見えないところにも工夫がなされているんですね。グラフィックデザインのお仕事をされているそうですが、立体を手がけることもあるのですか?

 

「広告の仕事がメインですが、webやパッケージ、店舗デザインなどもやりますし、立体は昔から好きなんです。趣味で木彫や陶芸もやるので、今回も立体というハードルは感じませんでした」

 

 

――表彰式では初めて自分の印鑑を持った時のことをコメントされていましたね。印鑑への思い入れが伝わってきました。

 

「22、3歳の頃、たしか素材は象牙だったと思いますが、初めて印鑑を注文してつくったんです。印鑑は大人にならないと持たせてもらえない、一人前の証みたいなところがありますし、自分だけのものなんだなという思いもあって、その印鑑を持ち帰ってから家でずっと触っていたり、いろんなところに押してみたりしてたんですよ。そういう感覚をもたらす要素が判子にはあると思うので、愛着が持てるものにしたいなと思い、この『自己QR』もつくりました。デジタル化した世の中ですが、だからこそ有機的なものが魅力的に感じるんじゃないかなと思いますし、仕事も含めて人の心に響くものづくりをこれからもしていきたいですね」

 

Profile
清水邦重 (しみず・くにしげ)
グラフィックデザイナー
1960年生まれ/東京都在住

 

執筆:杉瀬由希 撮影:池ノ谷侑花(ゆかい)