――今回はテーマに「暮らしを彩る、習慣になる、気持ちを伝える」というサブタイトルを設けていますが、それによってどのような効果や反応が期待できると思われますか?
モノを開発するときは、どこで、誰が、どういう風に使うかを考えるところから始まるので、その部分が想像しやすくなるのではないかと思います。SNDCは商品化を前提としているコンペですが、「商品化」=「売れるモノ」というところから発想してしまうと、いいアイデアは浮かびません。売れるモノをつくるためには、日々の暮らしのなかで使ってみたくなるようなシチュエーションを具体的に思い浮かべて、そこからスタートしないと。そうしないと、生活のなかで本当に求められているものなのか、という肝心なところが抜け落ちてしまいます。サブタイトルはひとつの入り口として、それを考える手助けになるかなと思います。
最近はグローバルな感覚をお持ちの方が多いので、日本の暮らしや習慣にとどまらず、海外の人の目にも面白く映り、使ってもらえるような作品がたくさん出てくるのではないでしょうか。これまではまだちょっと物足りない印象でしたが、まだまだ余地があると思うので、この先もっとグサッと刺さるようなものが出てくることを期待したいですね。
――後藤さんはこれまで多くのインテリア小物や雑貨のプロデュースをされてきましたが、「これは売れる」と思うモノには何か傾向や特徴があるのでしょうか?
ストーリーがある。これは大事ですね。素材でも、製法でも、使い方に関してでも、何でもいいんですよ。たとえばウールだったら、産地はどこで、こういう環境で育ったこういう種類の羊からとれた毛で、だからこんなに柔らかくて肌触りがいいんですよ、とかね。あるいは、使うことによって暮らしがどう変化していくとか。そういう関心を引くようなストーリーがあると、デザインの美しさだけでなく価値が広がり、それが売りにつながっていくんです。テレンス・コンラン氏の言葉に、「SELLよりTELLが大事」という至言があります。売ることよりも、まずストーリーを語りなさいと。それによって、モノはただのモノじゃなくなり、付加価値を持ったより魅力的なモノになる。しるしもそういうストーリーを考えていくと、面白いものができるのかもしれませんね。
――後藤さんにとって魅力あるモノとは?
やっぱり、まずビジュアルでピンとくるかどうか。審査をしているときも、いいモノは一瞬でパッと目に飛び込んでくるんですよ。説明を最後まで読まなきゃわからないようなものや、ストーリーがあってもあんまり回りくどいものはダメ。わかりやすくて、かつ心に響く。モノの魅力とはそういうものだと思います。いいモノを生み出すには、デスクで考えたりPCで線を描いたりするだけでなく、街へ出て新しいモノを探したり、生活のなかにあるモノをあらためて見直したりすることが大事。そこにきっと、何かヒントがあるはずです。
執筆: 杉瀬由希 撮影: 稲葉真