――次の第13回SNDCは、初めてサブタイトルを掲げますが、「これからのしるし」というテーマは踏襲しますね。「しるし」を追求し続けるのはなぜですか?
シヤチハタという企業は、やはり「しるし」ではないでしょうか。「しるし」を手放してはいけない。自分のテリトリーじゃないところに幅を広げていくと、自分のニッチを見失ってしまいますし、ニッチの中にこそシヤチハタという企業の真価や社会に貢献するポイントがあるはずです。ニッチというのは意外性のある隙間ではなくて、企業が本来そこに座るべき場所という意味です。それを見極めるために、このコンペで様々な人たちの力やアイデアを借りているわけだとおもうのです。
たとえば、今でも新聞広告賞ってありますよね。新聞広告なんて時代遅れだから応募しないと考えるのもひとつの見識かもしれませんが、新聞広告はクライアントの製品を、想像もつかないような独創的な表現で伝えて、ちゃんと着地させるのがルールなんです。それを自分に課して挑戦するのだと考えると、ジャンルに、新しい古いはないはずです。 シヤチハタの「しるし」も同じで、デジタルの時代に必要なのかと言われるかもしれないものでも、そこから思ってもみないような飛躍をすればいいんです。世の中みんな左に曲がるからといってシヤチハタも一緒に左に行けば、いちばん後ろをついて行くしかない。それよりもみんなとは違う方向で強みを発揮して独立独歩の道を狙ったほうが、きっと面白いことが起きると思います。
――「これからのしるし」というテーマに対して、ご自身はどんなことを考えますか?
脳についた傷のように忘れられないしるしもあれば、次第に存在を消して溶けていくようなしるしもある。ものすごく強烈なものからものすごく淡いものまで、「度合い」をどこに定めるかを考えて突き詰めていくと、デザインになるのでは、と思うんです。たとえば僕だったら最近はタトゥーが気になるので、1日とか1週間で消えるものとかを考えるかもしれない。それなら間違った綴りを入れられても安心でしょ(笑)。
――SNDCはプロダクトコンペではありますが、審査員がプロダクトに限らず様々なジャンルのプロなので、それが応募作にも反映されているように思います。前回の受賞作もバラエティに富んでいました。
コンペというのは審査員とのコミュニケーションですからね。応募する人がいて、それに応える審査員がいて、それで賞が決まるわけで、審査員が変わったら選ぶ作品も変わってくる。それはつまり、審査員が優れたものを選んでいるからではなくて、審査員と応募作が化学反応した結果が賞という現象なんです。コンペで入賞したということは、海千山千の審査員に対して、相撲でいうところのまわしが掴めたということ。それはとりもなおさず、世の中と四つに組んで相撲が取れるということです。その手ごたえを仕事に向ければ、こんな風にしていくと世の中はちゃんと見てくれてビジネスが開けていくということがわかってくる。デザイナーは、世の中とのコンタクトポイントを探っていくことによってどんどん成長していくわけですから、コンペに挑戦して得るものは賞金や実績だけではないんですよ。
執筆: 杉瀬由希 撮影: 稲葉真