〇でも□でもない「スーパー楕円」に着目した「|x|^5/2+|y|^5/2 =1」でグランプリを受賞したBAKU DESIGNの石川草太さんと柳沢大地さんに、アイデアの源や苦労した点など開発の背景についてうかがいました。

――「|x|^5/2+|y|^5/2 =1」のアイデアはどのようにして思いついたのでしょうか? 最初は方向性の異なる案を考えていたと授賞式でおっしゃっていました。

石川SNSなどのアカウント画像は、これまでは四角だったけれど最近は丸が多いねという話から、最初は丸い形状のスタンプで自分のアカウントの画像をつくれる、というカスタマイズ性をコンセプトに考えていたんです。そこから、UIにスーパー楕円が使われているという話を思い出して、四角と丸の中間の印鑑だったら今までにない形状だし、四角と丸のどちらの印欄にもきれいに見えるという付加価値も与えられるんじゃないかな、と。発想の発端はそこでした。

柳沢個人の趣味嗜好に合わせてカスタマイズできる印鑑は、自由すぎて、逆にモノとしての強度がないんじゃないか。面白いけれど、果たしてそこまで新しいと言える案なのか。そういう引っかかる要素がいくつかあって悩んでいたときに、石川が持ってきたのが「スーパー楕円」の案でした。電話で聞いたんですが、口頭の説明だけでイメージが浮かび、これはいいんじゃないかと思いました。

―― 石川さんはデザイン、柳沢さんは建築の専攻だそうですが、スーパー楕円の数式はどちらの分野でも馴染みのあるものなのですか?

石川デザインの分野では、たとえば有名なところでは、アップル製品のアールや画面のアイコンは、基本的にスーパー楕円の曲率で制御されていると言われています。

柳沢建築でもスタジアムの設計など大規模な建築にスーパー楕円があります。でも建築は基本的にはやはり四角で、曲線であっても円弧を使うので、この案はどちらかと言えばプロダクトの発想だと思います。石川の、プロダクトの教育を受けてきた背景がこの発想につながったという気がしますし、彼のアイデアを愚直に求めて行く姿勢や、アイデアを案に押し上げていく熱量はすごいと思いました。

―― 制作の過程で苦心したことはありますか?

柳沢シンプルな印鑑になるだろうという見解は一致していたので、最初のプロトタイプを3Dプリンターでつくるところまでは割とスムーズにいきました。そこから先はディテールをどう詰めるか。特に曲率は、スーパー楕円とひとことで言っても指数の値が違うとまったく違う形状になるので、その値をどうするか慎重に考えました。

石川大きさは4種類ほどつくって検証しました。市場にある印鑑の太さを調べて、最終的には13㎜くらいの直径だと男性にも女性にも使いやすいと判断しました。捺すときは、親指と中指で挟み人差し指で掴んで持つのが基本動作なので、指の太さと同じくらいだと持ちやすいのかな、と。頂上部分も、意外に収まりがいい凹状にするか、気持ちのいい凸状にするか、といろいろ考えました。

―― 審査時では印章の美しさだけでなく、手に持った時のフィット感も評価されていましたが、そうした検証の賜物だったのですね。

柳沢持ちやすさからデザインを考えたわけではないのですが、スーパー楕円を用いるというアイデアを入口に、そこから機能性やモノとしての佇まいを後付けしていった感じです。後付けというと誤解を招くかもしれませんが、カタチを再解釈して理論を循環させるという意味で、僕はデザインというのはそういう作業なのではないかと思っているんです。建築でも、菊竹清則さんが「か・かた・かたち」という概念を提唱しています。「か」はビジョンやコンセプト、「かた」は方法論、「かたち」は表れる形態。そのうちのどこから始めても、最終的にこの3つが揃っていればモノとして成立すると唱えていて、僕たちもそういう考えで取り組みました。

石川カタチに意味が見つかった、という感じですね。スーパー楕円というアイデアに色々な肉付けをしていって、結果的にシンプルなものではあるんですけれども、こういう作品になった。丸から四角に近づいたことで、向きがわかりやすくなったり握りやすくなった、というのは検証の段階で感じていましたが、そこに焦点を当てた提案ではなかったので、審査員の方にその点も評価していただけたのは嬉しかったです。

―― 作品名を数式で表現したところも新鮮でした。

柳沢作品名は悩みましたが、最終的に数式にしたのは、デザイナーの恣意性を消したかったんです。この提案は、単純にスーパー楕円という幾何学を用いただけの作品で、そこにデザイナーの意思や個性はほとんど入っていないので。いかにして立つかという作品が多い中で、逆に言えば、その新しさはあるかなと思いました。

石川最初の案とは真逆の方向ですね。どんどん引き算していき、余分なものはできるだけ排除しようと二人で話しました。個人に焦点を当てた最初の案とは対照的に、この案は普遍性に寄ったものなので、タイトルはやはり数式が一番しっくりくるなと。

柳沢たとえば、モノを売るためには主張しないといけないわけですが、そうなるとモノとモノとがせめぎ合ってしまう。都市空間も人を引き付けようとすると、どうしても足す方向に行ってしまい、結果的に全体のバランスが崩れる。そうではなくて、もう少し引いていく思考が大事かなと。デザイナーは全体への意識を持っていたほうがいいと思うので、今回も二人で話し合っていく中で、日常的にこんなところに置いてあるとどうかとか、そういう関係性の中にモノを置いていく意識で考えました。数式は、その表れに過ぎません。ですから数式を使っていることよりも、その裏にある意味が重要なのだと思います。表現の世界は説明不可能なものにこそ価値があり、それをすべて数式で説いて行こうというのは無理がありますから。

石川あ、なるほどと納得させるような提案なので、数式に拒絶反応を起こす人も引き付けて伝わるよう、わかりやすさを大事に考えてプレゼンテーションしました。デザインも建築も基本的に答えのない世界ですが、その中で答えらしい見せ方ができたのではないかと思います。

 

Profile
BAKU DESIGN

石川草太(いしかわ・そうた)
学生

柳沢大地(やなぎさわ・だいち)
フリーランス