シヤチハタのアイデンティティカラーともいうべき朱色を印象的に用いた「シヤチハタの切手」で準グランプリを受賞した須田紘平さんに、アイデアの源や苦労した点など開発の背景についてうかがいました。

―― SNDCは前回に続き2度目の応募だそうですが、挑戦しようと思った動機は何だったのでしょう?

審査員の方々が著名な方ばかりなので、そういった方々に自分の作品を見てもらいたいという気持ちが大きかったです。あと、10年ぶりに再開したとき、告知ポスターがすごくきれいだったのが印象的だったんです。コンペにはいろいろな告知のデザインがありますが、その中でもSNDCはグラフィックがとてもきれいで、こういうコンペだったら出してみたいなと思いました。

――「シヤチハタの切手」はアート性を感じさせる美しい作品ですね。どこから着想を得たのですか?

たまたま降ってきたアイデアなんです(笑)。なかなかいい案が浮かばなくて、どうしようかなと思っていたときに、ふっと切手のアイデアが沸いた。作品化したらどうなるだろうかと考えたら、特に欠点はなさそうだし、テーマにも沿っていると思ったので、このアイデアで行くことにしました。これをブラッシュアップしていけば、作品として通用するんじゃないかなと。

―― アイデアをカタチにする過程で苦労はありましたか?

今回のコンペでいちばん頭を使ったのは、まさにそこでした。実は、最初に思いついた時のアイデアは、最終的なものとは違う形で、白い部分が一切ない、切手のシートまで含めて全部真っ赤な作品をイメージしていたんです。でも、それだと「キレ」があり過ぎるかなと。僕が尊敬しているプロダクトデザイナーの奥山清行さんが、著書の中で「デザインには“コク”と“キレ”が必要だ」とおっしゃいっているんです。コクがあり過ぎてもいけないし、キレがあり過ぎてもいけない。そのバランスが重要だと。その言葉を思い出した時に、これだとキレが強すぎてコクが足りないかなと思ったんです。キレというのは、見た人をびっくりさせるような要素。好きな人にはすごく響くけれど、好き嫌いが分かれたり、飽きられやすかったりする。一方のコクは、熟成された深みがあり、見ていて安心感がある。真っ赤なシートは、受け入れられないことはないと思いますが、日常生活で使うにはちょっとハードな感じがするので、もう少し一般的に親しまれている切手のデザインに近づけたほうがいいなと。でも切手っぽくし過ぎてしまうと、今度はコクに寄ってしまうので、最初の発想時のイメージを大切にしつつ、どう折り合いをつけるか試行錯誤しました。

―― 縁のにじみもコクの表し方のひとつですか?

そうですね。色がハードなので、朱と白をパキッと分けると、造形的にも硬い感じになってしまうし、少し柔らかいイメージにしたほうが、手紙に貼る時にも気持ちが伝わりやすいのではないかと考えました。周りをにじませてぼかすことによって、朱が持つキレを残しつつ、柔らかい感じも出せたのではないかと思います。

―― 審査では、前回の「Shachihata PAPER」を発展させた作品、という評もありました。

影響を受けたと思います。シヤチハタのアイデンティティを完成させつつ、ハンコというプロダクトから飛躍した作品だったので、こういうのもありなんだな、と思いました。作品の見せ方も、圧倒的な数の紙が塊になっていたので、とても印象的でした。

―― 前回応募された時の気づきや反省点を踏まえて留意したことはありますか?

前回はプレゼンテーションシートの完成度があまり良くなかったと感じていたので、今回はしっかりつくろうと臨みました。プレゼンテーションは、最初はもっと説明しようと思ったんです。切手らしく数字を入れたり、使用シーンを見せたりしたほうが伝わるかもしれないな、と。そこはかなり悩みましたが、今回は余計な要素をできる限り削いで、必要なものだけをポンと入れたほうが、コンセプトが際立つと判断しました。

―― 今後SNDCに応募しようと考えている人にアドバイスをお願いします。

コンペに限らず、何かをデザインして発表するときは、つくって発表はしたけれど自分はそんなに欲しくない、という作品は残らないだろうと思うんです。もしこういうモノが世の中にあったら真っ先に自分が買いたい。そう思うものなら、情熱をもってつくれますし、つくっても恥ずかしくない作品になると思うので、「自分がいちばん欲しいもの」を突き詰めてデザインするといいと思います。

 

Profile

須田紘平(すだ・こうへい)
フリーランス