しるしの習慣化を可能にする名前の紋様化システム「名前柄紋様」で準グランプリを受賞した石川和也さんに、アイデアの源や開発の背景についてお話を伺いました。
―― 前回の「JITSU- IN」に続き、2年連続の準グランプリですね。「名前柄紋様」のアイデアは、どのようにして思いついたのですか?
僕はコンペに応募するとき、なぜこのコンペが開催されているのか、というところから考えるんです。SNDCは、印鑑が衰退していく世の中の流れに対して何か変えていかないといけないという趣意があると思うので、生活がアナログからデジタルへと移り変わりつつある中で、アナログのものをつくるツールとしてデジタルを使えば、広く受け入れられるのではないかと考えました。
日常生活で印鑑は滅多に使わないですよね。つまり自分自身を証明する機会は、そう多くはない。むしろ「自分の物」であることを証明するほうが多いので、そこに何かしらの価値を入れ込むことができないかなと考えました。和柄模様を見て、名前をこういう模様のようにパターン化できたら上手くつながるかもしれないと思い、試しに「原」の文字でつくってみたら、きれいだなと。じゃあ、これをアイテムに落とし込んでみよう、とあの提案になりました。
―― 着想から制作まで順調だったようですが、苦労はありませんでしたか?
自分の名前を模様化するというところまではスムーズに進んだのですが、それによってどういうユーザーに訴求するかという点はかなり考えました。たとえば、模様だけつくって終わりにするか、模様をアイテムまで落とし込む流れまでをこちらでつくるか。その線引きは熟考しました。今回もアプリ画面のUI設計までつくったので、画面の流れをどう構築していくかところに時間がかかりました。
―― 文字のグラフィックへの落とし込み方も、一目で判読できてしまうと面白くないし、まったくわからなくても伝わりづらい。その兼ね合いはどう見極めて詰めて行ったのですか?
具体的なやり方としては、「原」の文字で言うと、Excelで正方形の枠の中に程よい余白でどうつくるかということを意識して、横のつながりと縦のつながりで連続させ、それをもとに微調整を重ねて行きました。和柄というのは同じ図形が組み合わされていて、単体だとちょっと寂しいけど、連続することで絶妙な演出になるところが表現の強みだと思います。名前の文字も、最初から模様にしてしまうつもりで見ていたので、読めなくてもいいかなと思っていました。6・7種類の名前でサンプルをつくったのですが、画数が多いのも難しいし、画数が少ないのも別の意味で難しかったです。
―― 常にいろいろなアイデアを考えているとおっしゃっていましたが、そのモチベーションはどこからくるのでしょう?
僕は、日常の中のたわいのないものや見慣れている風景に対して、何故これはこんな形をしているんだろう?と考えるのが大好きなんです。この形である理由が何かあるはずだと。いろいろ調べて、なるほどこういう理由だからか、と、発見した瞬間の達成感や高揚感がすごく気持ちいい。こういう理由でこれがつくられたのであれば、同じような理由でつくられた他のものと2つの要素を組み合わせたらこれも成立するな、とか。そいう自分の中に気付きを得たいという思いが、自分を動かしている一番のモチベーションですね。
コンペの場合、多くの人はテーマから輪を広げるように発想していくと思うのですが、入口が同じだと、どこかで他人と同じようなアイデアになるのではないでしょうか。僕は、まったく関係ない事象とか物事を取り上げて、無理やりテーマに結びつけたり、あえてちがうほうから考えてみる、ということをやると、他人と被るアイデアはまず生まれないし、面白いものになるような気がします。
―― 来年のSNDCに向けて、抱負と戦略を聞かせてください。
次こそグランプリを狙いたいと思う気持ちはありますが、これまでのグランプリ作品は自分の考え方とはちがう軸のアイデアなので、どうでしょうね……。しかし、その中でまた2位になれたらそれはそれですごいことだと思いますし、3年連続で受賞した人は今まで誰もいないと聞いているので、そこを目指したいですね。
Profile
石川和也(いしかわ・かずや)
デザイナー・アイデアクリエイター