会社員
「しるし」の機能を考える中で感じたのは、デジタルのスタンプが多様性を増しているのに対し、アナログのスタンプはあまりにもバリエーションが少ないということでした。「気持ちを伝える」には、押印する時の意思や感情が紙面に表現されないといけない訳ですが、単に印影を残すだけでなく、使用者の意思や感情をその場でしるす「余地」が必要だと気づきました。そこから考えを進めると、顔に表情の余白を残すアイディアは自然と生まれ、シヤチハタのネームペンと組み合わせてアイディアが帰着しました。
私はデザイナーではないので、造形作業は苦労しました。模型やデザインの完成度では分が悪いことはわかっていたので、コンセプトやネーミング、使用感など、商品化に対しどれだけ現実的で可能性があるかについて訴求することを心がけました。この「emo.pen[えもペン]」は、絵が苦手な人でも目と口を加えるだけで表情をしるすことができ、手軽に気持ちを伝えられます。また輪郭のスタンプは、自分の顔だけでなく、動物や好きなキャラクターでも成立します。お気に入りの顔を選べるよう選択肢が増えれば、ビジネスとしても可能性が広がるのではないかと思います。
プロダクトデザイナー
プロダクトデザイナー
SNDCが10年ぶりに復活した時の審査結果を見て、プロダクトデザインを生業としている自分たちの力量を試すために最適なコンペティションだと考え、昨年から挑戦し始めました。まず2人でお互いにいくつかの方向性を持ち寄り、ディスカッションを繰り返しながら、それぞれの方向性の具体案を考えていきました。
仕事柄、普段からモックアップは作っていますが、限られた予算のなかで模型をつくらなければならないというところで非常に苦労しました。今回1次選考に2案通過し、2つの模型を並行して進める必要があったことも苦戦した理由のひとつです。
「次の素材」はその名のとおり、これからの判子の素材を考えていくという提案です。今回は、既製のリサイクルプラスチックを採用しましたが、リサイクルプラスチック自体を開発するなどさまざまな可能性を秘めています。判子は黒1色だという既製概念を、リサイクルプラスチックというエシカルな方法で壊していくことが、「これからのしるし」になり得るのではないかと考えています。
インハウスデザイナー
グラフィックデザイナー
「これからのしるし」と聞いて直感的に思い浮かんだのは、元来のシヤチハタの強みである「印」という言葉でした。しかし「未来の当たり前」を考えると、物質的に残る「印」よりも、「記す」という行為自体に潜む新しい可能性に未来を感じ、2人でディスカッションを行いました。
しるしの定義は「形跡を残す」ことです。紙が発明される遥か昔から、人間はさまざまなところに「しるし」を残し、形や意味を与えることで絵と文字が生まれました。デジタル技術が発達し、多くの新しい表現方法が可能になりましたが、クリエイションの始まりが常に1本の線であることは変わりません。デジタル技術とアナログアプローチが繋がるところで、実用性のある新たな可能性を検証しながらアイデアを磨きました。そして大量のスケッチを描く過程で、アイデアを可視化する線を手軽に描ける罫線のような「しるし 」が思い浮かび、シヤチハタのスタンプと結びついて、この案に辿り着きました。グラフィックや立体など様々なデザインシーンにおける使いやすさを検証した上で、印面の幅を75mmに設定し、長さ5mmの「点々」「四角」「三角」の3つの模様を展開しました。
学生
学生
最初はCOOL JAPANとして注目されている「結び」から、外国人向けのお土産としてのプロダクトを考えていました。しかし、作品を練るなかで「結ぶ」という行為自体に可能性を感じたので、余計な要素を省いていった結果、朱色の組紐というシンプルな提案に着地しました。
1次審査の段階ではプロダクトとしての詰めが甘かったため、2次審査では1次での課題を可能な限り克服しようと思い、結びやすさ、色味を吟味し、組紐を用いるというアイデアに辿りつきました。さらに紐のインパクトや、使いやすさを考えた結果、ボビンの形態を選択しました。
僕たちは2人とも建築専攻で、プロダクトデザインは初めての経験だったので、模型作成には苦しみました。すべて手作業となり、細部が不細工になってしまったことは反省点です。漆塗りによるボビンに巻かれた朱色の組紐の佇まいは、家のどこに置いても馴染みます。また結び方を解説した冊子も付いているので、日本人はもちろん、外国人の方にもお土産として喜んでもらえるのではないかと思います。
プロダクトデザイナー
SNDCは2006年と2007年に受賞経験があり、今回10数年ぶりに応募しました。最初さまざまなアイデアを考え、スケッチを繰り返していたのですが、ふと、リビングのテーブルに置いてあったシヤチハタのネーム印に目が行きました。子供の小学校で配られるプリントへの捺印に毎日使っており、机の下の金属部分に取り付けられるように、ネーム印に磁石をテープで巻き付けて使っていました。それを見て、荷物の受け取りなどさまざまな場所で使うものなのに、今のままの形で良いのか?と思ったのが始まりです。
磁石を内蔵するということまではすぐに決まりましたが、使いやすさも含めていかにシンプルに仕上げるかに注力し、木材や塩ビパイプを削り、手に取って確かめることで適切な形や角度を検討しました。一見、何もデザインしていないように見えますが、くっついた状態からすっと手に取りやすくできています。また金属部分であればどこでも取り付けられるので、使うシーンに寄り添った配置が可能です。大きな進歩ではありませんが、しかるべき方向に半歩進んだアイデアになっていると思います。
アートディレクター
アートディレクター
コロナ禍で、社会の風潮としても判子文化の意義が問われている中、これからの印鑑やシヤチハタがどのように進化していくのかを考えたいと思い、SNDCに応募しました。絶対に無くならないと思っていた判子文化が、もしかしたら無くなるかもしれないという時代の変化に対して、ネガティブではなくポジティブに考える方向へ自然と思考が向かっていきました。
まず「しるし」の要素を見つめ直しました。判子文化が無くなるかもしれないという流れがあるとはいえ、便利な部分は価値として残るはずです。今までは承認のしるしとして使われてきた判子を、もっと他に活用できる場はないのかと思ったのが着想のきっかけです。機能的であるだけではなく、触りたくなるような、ユーザーにとって使いたくなるデザインを意識し、スイッチなど細部のユーザビリティは時間をかけてデザインしました。身のまわりの空間に置いてあっても違和感がなく、むしろ空間が素敵になれば良いなと思ってつくりました。
グラフィックデザイナー
コロナ禍においての「新しい生活様式」を考えなければと思いながらインターネットを見ていた時、SNDCのサイトに行き着き、「これからのしるし」というテーマを考えていくことが新しい生活様式につながると思いチャレンジしました。着想のきっかけは、大学病院で看護師をしている娘のひとことでした。
「災害の時などに、赤ちゃんから高齢者、そして外国の人も、せめて“血液型と生年月日”が分かれば少しでも早く助けられる…」。
その言葉から、世界中の誰もが認識できる「色」を使って、氏名や血液型、生年月日などのデータを登録し、それを自分の持ち物に表示することによって、「個人認証を示すこと」ができないかと考えました。持ち物として使用するからには、「楽しくてオシャレで美しい」必要があります。そこで実際にTシャツやキーホルダー、スマ―トフォンケースなど色々なものに落とし込みながら、デザインが主張し過ぎないようバランスを検証。一人ひとりにとって明るく楽しい「わたしだけのしるし」になればと、思いを込めました。今後、オリジナル性がある、新しいコミュニケーションの展開ができたらと思っています。