中村勇吾_13th_SNDC

――SNDCの審査員を2年務められて、気になったことや、もっとこうなったらいいと思うことがあれば教えてください。

デザインコンペ全体に言えることですが、企画コンペに近い様相を呈している気がします。企画レベルで終わっていて、アイデアをいかに具体化するかというところが弱いので、モノ自体で魅了される提案が少ない。印鑑やハンコに関して言うと、アイデアの種類ってそんなに多くないと思うんです。でもアイデアがかぶっていても、具体化の形が異なればまったくちがうモノになるので、具体化する力をつけるといいのではないかと思います。

中村勇吾_13th_SNDC
――デジタルの提案についてはどんな期待をお持ちですか?

今はデジタル=先進的という時代ではなくなってきているので、最新技術や流行りの何々を使うということよりも、情報と物質の新しい接点を見つけることが大事なのかなという気がします。デジタルテクノロジーの長い歴史のなかには、新しく生まれた技術があるいっぽうで、廃れていった技術もあります。一見古くなったようなテクノロジーも、シヤチハタとつなげると新しいシナジーが生まれるかもしれない。そういった、ゲームボーイの生みの親・横井軍平の「枯れた技術の水平思考」のような観点が必要ではないかと思います。さらに、この技術をこっちに当てはめたらどうなるか、というような発想のシフトもしながら、シヤチハタならではのデジタルとの接点を、ぜひ見つけてほしいと思います。

――ご自身は、コンペに出品した経験はありますか?

学生の時に一度、3人で組んで出品したことがあります。僕は土木工学専攻で都市計画を志していて、そのコンペは当時まだ更地だったお台場の土地をどう活用するかというお題でした。僕たちが提案したのは墓地にするというプランで、水と生と死をテーマにした、アイデアとしてはコンペ映えしそうなものだったんですが、結果は箸にも棒にもかかりませんでした。やっぱり定着の仕方が下手なんですよ。アイデアをきちんと絵で表現して伝えることをほとんどしたことがなかったので、やっぱり修行しないと急には描けないなと(笑)。でも、いい経験をしたと思っています。ダメさを知るというのは大事なことで、一回知ると、もう同じところには行きませんから。それもコンペに参加する意義の一つだと思います。

中村勇吾_13th_SNDC
――これからのSNDCに期待することは?

この10年程、いいデザインの評価回路が定式化していると思うんです。デザインコンペで受賞している人たちのアイデアの出し方の角度というのか、文法が似ているんですよね。日常のモノに対して少し観点を変え、ある部分をさらっと変えるだけで価値観が変わる。それが気持ちいい、という共通したセンスがあるんじゃないかと思います。そのセンスは、基本的に原さんと深澤さんがつくったものだと思うんです。リデザイン展とか、すごく鮮烈でしたからね。僕らの年代から10年あとの年代くらいまでは、みんなそのセンスにやられ続けてるんですよ(笑)。でも、それとは違うセンスや文法もあるはずなので、そういう新しい切り口や感受性を持っている人に、この先SNDCを通じてできるだけ出会えたらいいなと思います。

執筆: 杉瀬由希 撮影: 稲葉真