――“「   」を表すしるし”という今回のテーマ、深澤さんならカギカッコにどんな言葉を入れますか?

僕が大事に思うのは、言語化することですね。たくさんの人が納得し、同意するような言葉にすることが、しるすという意味では重要かなと思っています。たとえばSNSの発信は、どんどんワードが圧縮されて小さくなっていますよね。笑いを表すしるしも「(笑)」から絵文字になって、それが「www」になったり。こういうコミュニケーションをしるすものはそれでいいのですが、残すしるしというのは、それを見た人が納得できるようなプラットフォームになる、世界を掌握できるような言葉やキーワードをしるすことだと思います。だから僕がカギカッコに言葉を入れるとすれば、「言葉」あるいは「キーワード」ですね。

――絵文字や顔文字、アイコンのスタンプなど、言語をグラフィックデザインで表すことはしっくりくる人が多いと思いますが、プロダクトの場合、言語化とはどういうものになってくるのでしょう?
 
最近の事例を申しますと、自分が持っているアイデアや、具体的なビジョン、カタチなどをアシスタントに伝える手段が、すごく変わってきているんです。以前はスケッチをしたり写真を撮ったりして、それを送ってイメージを伝えていましたが、最近は「ここ丸めて」「少しやわらかく」とか、その程度。抽象的でありながら短い言葉で伝えて、それに対して相手が動く。そういうコミュニケーションになってきています。もちろん根本的なところは共有できていることが前提です。最初は感覚的なところで、こういうものがつくりたいと言葉で伝える。そこがしっかり共有できていると、具体化する過程は逆にすごく単純なほうが、目指している表現に具体的に近づける気がします。

――一般的にしるしというと、印鑑やシヤチハタ印のように何かを具体的に明示する意味合いが強いと思うのですが、深澤さんはカギカッコに入る言葉を、むしろ抽象的なものとして伝えようとしているのですね。

僕らのやっていることは具体的なものをつくることではあるけれども、与えているのは抽象的な喜びなんですよね。抽象的な喜びを言葉で説明するのは大変なので、同調だけがあればいいし、なぜ同調したかを言葉で説明する必要はない。だから、より単純でいいんです。僕はよく語尾に「ね」をつけるんですが、「~だよね?」と言ったら、相手に対して「そうでしょ?」と聞いているようなものですよね。僕はモノを通じて「そうですよね?」と言っているわけで、「ね」をモノそのものによってしるしている、ということです。

――いまのお話は、一歩引いて傍にあるような深澤さんのプロダクトの印象に通じると思いました。

作家の平野啓一郎さんが、僕の作品を「近接的無関心」と表現されていて、さすがだなぁと思ったんですが、つまり、傍にはいて欲しいけど、余計なことはしない。生活というのは、たとえば花が一輪あるだけでも変わってくるわけですから、そこに対してちょうどいい距離感を常に嗅ぎ分けていくのが自分の仕事だと思っています。

――応募されるクリエイターの方にはどんなことを期待していますか?

デザイン・シンキングとよく言われますが、考え方のノウハウよりは、クリエイティブパスを考えることが大事だと思いますね。いまの時代は言葉やしるすということの影響力が大きく、世界が変わるほどの力がある。デザインも、自分の発した魂がどんな風に伝播し、どこへつながっていくのかという経路を考える必要があると思うので、ぜひそこまで考えてつくって欲しいですね。

聞き手:田尾圭一郎(美術出版社)
構成:杉瀬由希