―― “「   」を表すしるし”という今回のテーマ、後藤さんでしたらにどんな言葉を入れますか?

まず思いついたのは、伝えたい、あるいは残しておきたい「思い」や「感情」。つまり喜怒哀楽です。相手への感謝の気持ちのしるし、特別な出来事や日常で感じたささやかな喜びのしるし、社会に対する憤りや悲しみを表すようなしるしもあるかもしれませんね。たとえば私は年賀状を出すときは、宛名はすべて手書き、通信面は絵柄を印刷して、そこに手書きで一言必ず添えるのですが、今年は印刷の代わりに鳳凰の模様が彫られた判子を押したんです。どうしているかな、元気でいて欲しいなという気持ちを込めて、一枚一枚押したわけですが、それはまさに思いをしるすという行為で、年賀状は思いのしるしですよね。だから相手からもそういう年賀状をいただくと、あ、こちらの気持ちが伝わっているんだなと嬉しく感じます。

もうひとつ「   」に入れる言葉を挙げるなら、「道標」でしょうか。迷ったり悩んだりしたときに指標になるような、そういうしるしもあっていいのかなという気がします。

――「道標」は、SNDCに応募するクリエイターの皆さんがどんなものを目指すべきなのか、ということにもつながるメッセージですね。

コロナ禍で暮らし方やライフスタイル、仕事の仕方、いろいろなことが一変しましたからね。これからどういう方向に進んだらいいのか、何をしたらいいのか、皆さんそれぞれの立場で悩んでいるのではないかと思います。応募される方には、私には思いもつかないような斬新なアイデアを期待していますが、SNDCがこれから進むべき方向を考えるひとつのきっかけになればとも思っています。これまではそういう時間の余裕がなかった人も、この機会に無駄をなくすことや環境について考えてみるとかね。

――デザインやアイデアだけでなく、モノとしてどういう社会的な意味があるかも大事だということですね。

それには、日本に昔から伝わっているもの、あるいはこの先も残していきたいものを、もう一度見直してみるといいと思いますよ。これは私自身の仕事のテーマでもあるのですが、どういうものを、どういう形で残していくのか。あるいは、日本の素晴らしいモノや文化をどうやって海外に伝えていけばいいのか。そんなことを常に考えています。

――この先も残っていくであろうモノというのは、どういうところで感じ取れるのでしょうか?

ひとつ言えることは、人の手で丹念につくられたものはやはり大切にされるし、残っていきますね。いい例が古美術品や骨董品です。作家や職人が命を懸けるほどの情熱をもってつくったものは、色遣いや線一つ取っても非常に繊細で美しい。だから素晴らしい財産としいまでも大切に愛され、美術館に保管されたりしているわけです。古美術までいかなくても、5年、10年経っても色褪せないものは皆さんの身の回りにもあるでしょう。私が年賀状に使った鳳凰の判子も、20年くらい前に買い求めたものですが、いま見ても見事な彫りに心惹かれます。

モノは、他人から見たらガラクタでも、その人にとっては価値がある場合があるので、応募される方は世の中に認めてもらおうと思う前に、自分にとって何が大切かを考えて欲しいですね。自分にとっての「特別な日常」を見つけ、それを根底に発想を広げていくと、説得力のあるものが生まれるような気がします。

聞き手:田尾圭一郎(美術出版社)
構成:杉瀬由希