シヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティション(SNDC)は、昨年10年ぶりに再開し、今年で12回目を迎えました。
前年の「しるしの価値」を一歩推し進めた「これからのしるし」をテーマに掲げ、しるしの可能性を広げるプロダクトや仕組みを募ったところ、前回を上回る778点のご提案をいただきました。
応募者の皆様に心より感謝申し上げます。
着眼点や発想がユニークな作品の数々に、たくさんの学びや気づきがありました。
各賞に決定した10作品は、いずれも審査員の心を捉えた秀作です。
昨年の受賞作は、すでに数点の製品化が進んでおり、今年もこの中から魅力ある新しいプロダクトが生まれることを期待して止みません。
歌代 悟
Satoru Utashiro

水彩画のように彩りが滲んだ朱肉。押す人やその時々の気分、時間などにより異なる色でしるすことができるため、従来の朱肉以上のアイデンティファイ機能と、個性や感情表現という感性的機能を併せ持つ。わたしの色とあなたの色。昨日の色と今日の色。嬉しい色と悲しい色。全部違うから、このしるしが今の「わたしいろ」。

「シヤチハタといえば朱色、という固定されたイメージを解放するような作品。実際に水彩のように無限のカラーバリエーションがあれば選ぶのも楽しく、自分でも欲しいと思う」 (中村)  
「印を押すときどきの気持ちによって色が変わる。この瞬間の判断は心模様を露わにする。印という意志決定と心の色が同期する。伝えたい意味を暗示する見えない繋がりが印にはあるのだなと思った」 (深澤)
「まったく同じグラデーションには絶対にならない、まさに自分だけのしるし。オリジナリティのある、美しい作品」 (舟橋)
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石川 和也
Kazuya Ishikawa

手書きサインをカメラでスキャンし、印影の形状や色、印材の素材を選んで、世界にふたつとない自分だけの印章をつくることができる。同じ苗字の個別化が図れるので自己証明ツールとしての完全性や価値が高まり、外国人も日本のハンコ文化を体験できる。

「自分の「手書き」が手軽に判子になれば、「自分だけのしるし」として使用頻度も増えそう。また、国際社会でも普及すれば、新しいマーケットが期待できる」 (後藤)
「webのシステムを活用することで、よりわかりやすいカスタマイズを可能にした、時代の潮流に合った提案。手書きサインという欧米の文化と日本のハンコ文化を融合しているところが新鮮」 (岩渕)
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米田 隆浩
Takahiro Yoneda

朱色インクで染めた朱い紙は、それ自体がシヤチハタのアイデンティティを宿すひとつのしるしであり、ここからさらに利用者が包む、折る、切るなど手を加えることにより、新たなしるしとして展開されていく。これからのしるしを生む素材の提案。

「事務的なA4の紙を朱に染めるというアイデアが新鮮。朱肉の良さやシヤチハタのアイデンティティを伝えるツールとして実際にあったらいい」 (中村)
「しるすということを朱色に託したシンボリックな表現が見事。おめでたいことや切実な感情を表す時に一枚添えるなど、用途もいろいろありそう」 (原)
「発想の転換が素晴らしい。ハンコ文化の幅を広げていく可能性がある」 (喜多)
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喜多賞
岩田 浩司
Hiroshi Iwata

外既存に近い印影を AR(拡張現実)マーカーにした次世代判子。スマホ画面に印影を映すと、事前にアプリ登録された個人情報を写真入りで確認できる。ARを通してアナログ的な印章を名刺などの営業ツールや印鑑証明のように利用する「これからのしるし」。

「従来の朱肉の印鑑に現代の電子技術を巧妙に嵌め込み、唯一のしるしに転化した点を評価した。数千年かけて育まれてきたハンコ文化に鑑みて、時代の衝撃を見た思いがする」 (喜多)
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後藤賞
谷 一郎
Ichiro Tani

押印という事務的な行為を楽しくする、さまざまな動物の形をしたハンコ。押す時の圧力でボタン電池のスイッチが入り、押している間それぞれの動物の鳴き声を発し、紙から離すと鳴き止む。使わない時はデスクや玄関に飾って置ける。

「親子で楽しめる、暮らしに笑顔をもたらすハンコ。デザイン自体よりも使っているシーンに魅力を感じた。インダストリアルやデジタルが主流の生活の中で、この手づくり感も需要にマッチして良い」 (後藤)
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中村賞
渡辺 雄大
Yudai Watanabe

妊娠検査薬の陽性反応に、ポジティブでハッピーな印象を与えるハートマークのアイコンを用い、世界のニュースタンダードに。心臓の形を表したハートマークは、赤ちゃんが初めて母親にこれから生まれる命を知らせる、まさに「これからのしるし」。

「デフォルトとして使われているサインを少し変えるだけで、人にポジティブな気持ちを芽生えさせる。そこにしるしの持つ力がある。地味だが、人生に関わるモノにメッセージを込めたところが面白い」 (中村)
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原賞
高田 雄吉
Yukichi Takada

家紋は日本が誇る固有の財産であり、世界のブランドのシンボルマークにも影響を与えてきた。その家紋をハンコとして使いやすいよう線だけでリデザイン。古きを新しく甦らせ、印鑑に落とし込むことで、しるしの文化のさらなる広がりが期待できる。

「家紋にはミニマライズされた造形の美しさがある。ハンコになれば、日本人だけでなく外国人の日本土産としても大きな需要があるだろう。従来の認証という領域を超えたところに可能性を感じる」 (原)
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深澤賞
萩原 理央
Rio Hagihara
大橋 暁央
Akihisa Ohashi
原 盛夫
Morio Hara
岩佐 健太
Kenta Iwasa
(チーム名 : MARK)

AR(拡張現実)アプリと連動し、ユーモアたっぷりのキャラクター「シヤチハタくん」を生み出す印章。可愛らしい動きやメッセージで使う人の個性や思いを視覚化し、シヤチハタとユーザーを親しみやすい関係性へと導く。

「人のアイデンティティをしるす仕事をしている企業として、シヤチハタ自体にこういうシンボル的な存在があってもいい。『シヤチハタくん』という名前や形、実際に押しやすかったところも評価した」 (深澤)
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特別審査員賞
籔下 聡希
Toshiki Yabushita

しるす文化のグローバル化を視野に、欧米では公印として使用されているエンボス印を取り入れた新しい道具の提案。インクを必要としないため、理論上、無限に使用でき、一歩引いた主張をさまざまなシーンでしるすことができる。

「グランプリ等の朱肉の色を用いた案とは対照的に、インクを使わずに空押しするという、最小限のしるしに立ち戻っている。プラスの発想が多かった中で、ミニマムで研ぎ澄まされた表現が印象的だった」 (岩渕)
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特別審査員賞
澤本 和宏
Kazuhiro Sawamoto

「日本のお土産といえばシヤチハタ」の浸透を目指し、特設Webサイトから簡単に注文できる、スタンダードライン「ネーム9」をベースにしたギフトセットの提案。外国人の名前は漢字に変換し、日本らしい熨斗やメッセージを添えて贈ることができる。

「ギミックのあるアイデアだが広がりを持ちそう。シヤチハタの簡便性としるしの威厳は、ともすれば対極にあり両立は難しい。この提案はお土産の手軽感に、うまく落としどころをつけている」 (深澤)
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