シヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティション(SNDC)は、商品化を前提に生活や社会を豊かにするプロダクトや仕組みを募集するコンペです。 前回に引き続き「これからのしるし」をテーマにし、3つのサブテーマを設けて作品を募ったところ、前回を大きく上回る1,282作品もの提案をいただきました。
新型コロナウイルスの感染が拡大する中で多くの応募をいただき、このコンペに対する期待の大きさを知ることができました。
応募者の皆様に心より感謝申し上げます。
作品のクオリティも回を重ねるごとに良くなり、今回も審査員を唸らせる数々の作品に出会うことができました。過去の受賞作品からは、すでに商品化され大きな話題になっている作品もあります。
今年もこの中からから新しい日常で使われるプロダクトが生まれることを期待します。
石川 草太
Sota Ishikawa
柳沢 大地
Daichi Yanagisawa
BAKU DESIGN

|x|a+|y|a= 1で表される曲線の中で、a>2のものを「スーパー楕円」と呼び、特にa=2.5の時の曲線が最も美しいとされる。円弧を面取りするより人の目に違和感がなく、持ち心地も優しい。円形、四角、どちらの印欄にも収まりがいい、〇でも□でもない、最も美しいしるしのカタチ。

「『スーパー楕円』という判子の世界にありそうでなかった形を、見つけ出した衝撃と、数式で導き出した新鮮さ」(深澤)   
「丸と四角の線の美しいところだけ取った、人の心に訴える、価値のある形」(喜多) 
「プロトタイプもよくできており、捺す時の感触、捺した後の印形、どちらも気持ちよかった。その気持ちよさが論理的な根拠を持つことに腹落ちした」(後藤) 
「円柱に比べ楕円は、持つ位置がしっかり決まり、まっすぐ捺しやすい。機能的で美しく、持ち心地もいい、判子の理想ともいえる形であり、あらゆる意味で大賞にふさわしい要素を持った堂々たる作品」(原)
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石川 和也
Kazuya Ishikawa

日常生活で「わたしの物」であることを証明する機会は多い。そこで「名前」と「書体」の指定で模様化できるシステムをつくり、名前を応用が利く模様に置き換えることで、物への愛着を持たせながら、「わたしの物」を証明するしるしを考案。名前の手軽な紋様化で、しるしの習慣化を図る。

「『名前をしるす=ハンコ』の概念に捉われず、システムを使って紙以外の素材にしるすという発想がいい。いろいろな素材でできそうな実用性や可能性を感じる」(喜多) 
「着想もいいが、造形力が卓越している。普通の文字を選択して自動的に模様化する、その落とし込み方のクオリティが大変よい」(原)
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須田 紘平
Kohei Suda

シヤチハタのアイデンティティカラーといえる朱色を使った切手。鮮やかな朱を添えた便りは、人から人へ、さまざまな思いを伝え、その簡潔な佇まいは多様なシーンに馴染む。送り手、受け取り手、双方の暮らしを彩る、これからの新しいしるしの習慣。

「昨年の『シヤチハタペーパー』を発展させたアイデア。シート状の佇まいや朱色の縁の滲みが美しい。シールとして切手と一緒に貼ったり、封印代わりに使ってみたい」(後藤)
「日本人らしい美学を感じる作品。それなりの真剣さや緊張感を伴う、大切なやりとりをする手紙に使いたい。プレゼンテーションの仕方も巧みだった」(深澤)
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喜多賞
大越 一輝
Kazuki Ohkoshi

テストなどにペンで朱書きする「赤入れ」。そのやりとりには、評価する人、受け取った人、双方の感情が常に伴う。「emo.pen」は、自分オリジナルの輪郭スタンプに赤ペンで表情を描き足したしるしで、気持ち「emotion」を絵文字「emoji」のように情味をもって伝える。

「ちょっと描き足すだけでいろいろな表情がつくれ、相手を思う描き手の気持ちを伝えられるところが魅力的。コミュニケーションが楽しく豊かになりそう」(喜多)
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後藤賞
倉島 拓人
Takuto Kurashima
池田 美祐
Miyu Ikeda
M&T

オールプラスチックでありながら、100%リサイクル素材からできた印鑑。レジ袋有料化やプラスチック製ストロー削減などで環境への関心が高まっている今こそ、リサイクル素材を前面に打ち出すことにより、人々のエシカルな消費意識に訴える。

「エコでありながらマテリアルとしても美しい、時代にマッチした提案。素材メーカーとのコラボレーションで事業化できれば、面白い展開が期待できると思う」(後藤)
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中村賞
張庭瑞
CHANG TING JUI
邱子堯
CHIU TZU YAO
desigNerd

クリエイションの始まりは常に一本の線であり、ルールやグリッドに従ったり破ったりの往復を続けることで最終の形にたどり着く。「グリッド五ミリ」は、手軽にさまざまなグリッドを引けるローラースタンプ。5ミリ長さの「ドット」「四角」「三角」の3模様展開。

まず「描画の下地となるレイヤーを提供する」という新しいスタンプの捉え方がとても面白いと思いました。さらに、紙の上でコロコロとローラーを転がすことでグリッドが生みだされていく行為自体が、不思議な生理的快感を伴っているように感じました。(中村)
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原賞
岩佐 樹
Itsuki Iwasa
寺嶋 啓介
Keisuke Terajima
てらじまっくす

日本には昔から多くの「結び」が存在し、感謝を伝える時、贈り物をする時、自分を奮い立たせる時、さまざまな場面で使われてきた。添えるものに応じて好きな長さ、形で結び、思いをしるして伝える、シヤチハタを象徴する朱い紐の提案。

「水引ではなく組紐にしたのがよかった。太さや組み方を変えてバリエーションをつくっても面白い。結い方がわかる冊子をつければ日本土産としての需要も期待できる」(原)
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深澤賞
田島 和久
Kazuhisa Tashima

磁石を内蔵した、金属面に付着できるハンコ。側面に5度傾斜をつけ、接地面から持ち手の一部を浮かせることにより、手に取りやすいデザインに。玄関のドアや冷蔵庫の扉、手を伸ばした先で、ずっとこちらに傾きながら、丁度いい場所にハンコは居る。

「鉛筆を持ちやすく、転がらないようにするために六角形にしたのと同じ着眼点で、円柱というピュアでアイコニックな形に、削ぎ落した面をつくるアイデアが面白い」(深澤)
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特別審査員賞
畝見 謙人
Kento Unemi
石川 菜々絵
Nanae Ishikawa
raw

UV発色インクとブラックライトが1つになったシヤチハタ印「mine」は、自分の物を証明するしるし。通常時は無色透明で、ブラックライトを当てると印が浮き上がる。「承認」という公的なシーンで使われる印鑑で、「所有」という私的な人と物の関係をつくる、新しい使い方の提案。

印はもはや紙に限ったものではなく、時代に合わせて様々なもの、特に今や個人のアイデンティティと切り離せないものとなった、スマートフォンに押せるという感性が鮮やかでした。(岩渕)
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特別審査員賞
秋山 健
Ken Akiyama

万人に共通する個人認証法を考え、世界共通の「カラー」に着目。氏名や生年月日、血液型などの情報を色で表してデータ登録し、さまざまな自分の持ち物にも表示できる。明るく楽しく美しく、自分を示し、暮らしを彩る、わたしだけのしるし。

「いろいろな認証の分野を開く期待感を感じさせる。一見、個人情報とわからないところがいい。アプリケーションで情報内容が確認できれば有用性が高まるだろう」(舟橋)
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