新しいプロダクトデザインを募るコンペティション「シヤチハタ ニュープロダクト・デザイン・コンペティション(SNDC)」がいよいよ復活する。1999年に第1回を開催して以降毎年開催され、商品化を前提としたコンペティションとして話題を呼んだが、2008年を最後に一旦休止。それから10年の年月を経て、満を持して再開の運びとなった。記念すべき再開第1回目のテーマは「しるしの価値」。長年「しるす」文化の創造に携わってきた企業シヤチハタにとって、原点回帰ともいうべきテーマである。
今回、審査員を務める中村勇吾氏に本コンペのテーマ「しるしの価値」について聞いた。
――10年ぶりの「シヤチハタ ニュープロダクト・デザイン・コンペティション(SNDC)」に、webやインターフェースデザインを専門とされる中村さんが審査員として新たに参加されることは、この10年の時代の変化を象徴するとともに、主催者側のこれまでとは違う気付きへの期待も感じます。中村さんご自身は、このオファーをどのように受け止めていらっしゃいますか?
シヤチハタと聞いて思い出したのは、10年以上前に深澤直人さんが出演されていた某テレビ番組。深澤さんがシヤチハタ製品の全面的なリニューアルを手がけられ、シヤチハタの社員にレクチャーをしている内容でした。その中で深澤さんが、みんなが使っているシヤチハタのハンコは日本の“公共物”だから、日本のインフラをデザインするような意識で取り組みましょう、というニュアンスのことをおっしゃっていていたのが、とても印象的だったんです。
今回のコンペは、情報化社会以降のデザインみたいなところが問われているのだと思いますが、僕は割とニュートラルに考えています。情報の価値が注目されるようになって数十年経ち、今はその揺り戻しでモノとしての良さをみんなが思い出し、モノに向ける視線もどんどん広がってきている。僕らの年代はモノのデザインの時代を長く過ごしてきたので、情報的なデザインの方が新しく見えますが、若い人にとっては生まれた時からあるわけですからね。IT系のデザイナーにもモノのデザインをしたがる人が増えましたし、フィジカルなところにアクセスしたいという空気は確実に広がってきている。そこにどう折り合いをつけるかというところが、このコンペの一番面白そうなところかなと思っています。
――この10年で、モノと情報の領域は近づいたということでしょうか?
情報は、物理的には今までパソコンやスマートホンなどの画面の中にあるものでしたが、だんだんそういう決まりきった文脈ではなくなり、モノと渾然一体になってきた。モノを使う行為そのものと結びつくような、情報的なこととモノが溶け合っていくイメージですね。Internet of Things(IOT)と言いますが、情報が霊魂とかそういう根っこにつながっている感じ。接続を切られるとただのモノだけど、繋ぐと血が通い、魂が宿る。これからますます、そんな風になっていくんじゃないかと思います。
――「しるし(印)の価値」というテーマについてはどう考えていらっしゃいますか?
ビジネスの世界では承認プロセスみたいなものだと思うんですが、もっと日常的な行為として自分の足跡を残しておくのも「しるし」かなと。大げさにいうと、自分そのものじゃない、概念の自分の痕跡を残す感じ。ツイッターで「いいね」を押すと、そこに自分のアイコンが出るように、ここにいたよとか、見たよとか、そういう自分の痕跡を外部に示すようなイメージがありますね。自分のグラフィティのような側面もあるのかなと思います。ニュース一覧に戻る