シヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティション(SNDC)は、今年で15回目を迎えました。
今回は『こころを感じるしるし』をテーマに、喜怒哀楽をはじめ、さまざまな感情を表現したり、伝えたりすることを目的とした提案が、国内外より975点集まりました。 新たな評価軸として、商品化だけでなく実現性を見ることとなりましたが、文具やハンコのほか、体験を生み出す仕組みも増えた印象です。依然としてハンコを軸にしたアイデアが多くはありますが、年々レベルは上がっていると、審査員も事務局も感じています。
「こころ」という、やや漠然としたテーマのため、解釈が難しかった部分もあるのかと振り返りますが、新しい「しるし」のあり方を考え、応募いただいた皆さまに、こころより感謝申し上げます。
繆 景怡
Miao Jingyi
邹 冱
Zou Hu
チーム名 : MZ Design

アヒルのおもちゃは多くの人の子供時代の記憶の縮図で、黄色の体と「ガガ」という鳴き声は忘れられない。黄鴨印は押した瞬間に、アヒルの鳴き声がする。押すたびに、子供の頃の思い出がよみがえる特別な体験をもたらす。

かわいい。でもかわいすぎなくて、誰もが知るアヒルのおもちゃの「あの感じ」という質感だけを残しています。自分もハンコを押すときには心の中で「決断の音」のようなものが鳴っている気がするのですが、そのときに「ぷきゅ」って鳴るのは、なんだか上品なユーモアに感じました。(中村)
威厳のあるハンコが、アヒルのおもちゃのようなものに置き換わる。でも決して軽んじられているというのではなく、そこに狙いすました良質なユーモアを感じます。こういう押印行為があってもよいと思います。「大臣に任命する(パフ)」みたいな。(原)
こういうものを、コンペに堂々と出してくるという度胸が、すでに一歩進んでいる。アヒルというアイコンですが、子どもの描いたかわいい絵でもアニメでもなく、複合的なセンスをまとめています。音というメディアを持ち込んで、滑稽なユニークさを生んでいる。なかなか高度なことをしていると思いますよ。(深澤)
思ったよりもシュールな音で、審査会でこれを押している、舟橋さんや原さんをはじめとした審査員の姿がよかったです。誰が押すか、どんな印影が押されるかが問われると思いました。(三澤)
堀 聖悟
Seigo Hori
瓜田 理揮
Riki Urita

「背景を装飾する」ことを目的としたスタンプ台。黒の濃度が「5%」という白に近いトーンでの装飾は、印影としては前に出すぎず、背景を静かな佇まいで演出する。今まで伝えることが難しかった送り手の「こころ」をささやかに表現する提案。

書いた文字の下のレイヤーに薄い透ける存在が入るというのは、新しい感覚でした。はっきりと押すのではなく、静かに佇むハンコのあり方は面白いです。(三澤)
デザイナーという立場を超えてしまえば、「何かを加えたい人」はいるのだろうと思う。むしろ、その方が人間らしいのかもしれない。無地の便箋を選ぶことは、美学なんて大したものではないのだから。(深澤)
塚本 裕仁
Yuji Tsukamoto

嬉しい時の「ヤバい!!」、楽しい時の「ヤバいw」、困った時の「ヤバい…」。自分のこころを表すとき、人は度々「ヤバい」という言葉使う。『ヤバ印』は、そんな様々な「ヤバい」のニュアンスを表す。「ヤバい」に含まれるたくさんの意味を再認識し、「こころを感じる」新たなハンコの提案。

押して初めて「こんなふうに見えるんだ」というのが結構よかった。ネット上で文章を書いていて「笑」とか「草」とか、色々打ってみて、画面で一度見てからちょっと変える、そういうありがちな所作がハンコの機構に埋め込まれていて面白い。タイピング文化の言葉のテンプレ化のようなものを、うまくモノに落とし込んでいる気がしました。(中村)
「ヤバい」を広辞苑でひくと、すでにプラスの意味も出てきます。日本の神様はいろいろなヤバいところにいますから、おそらく日本人の心の中にはいつも「ヤバい」に対する感性が働いているのだと思います。現代アートのオブジェのように僕は見えました。(原)
中村賞
田羅 義史
Yoshifumi Tara
三澤 萌寧
Mone Misawa
若田 勇輔
Yusuke Wakata
チーム名 : ta_rabo

梱包の細部にも相手への心遣いを行き渡らせるテープ開封済みの跡が残る特殊なテープ。思わぬ部分に和柄が現れることで、テープを剥がすという作業のなかにも小さな驚きと感動が生まれ、美しさにふと心に立ち止まる瞬間をもたらしてくれる。

ここ数年はコロナの状況下で宅配便の利用が増え、 ガムテープがコミュニケーションのなかにいっぱい出てくるようになりました。そんなこのご時世にあって、すごく素直なアイデアだと感じました。ガムテープをめくったときにびっくりするというのは、ちょうどよく心を感じるというか、今回のテーマに合っていて、一次審査の時からいいなと思って見ていました。(中村)
原賞
都 淳朗
Atsuro Miyako
太田 壮
So Ohta

『ごめんなサイン』は、謝罪の気持ちをそっと伝えてくれるキャラクター訂正印。「訂正印」自体がキャラクターとなり、コミカルに気持ちを伝えるツールに生まれ変わった。本人の申し訳ない気持ちを表しつつ、貰い手もちょっとクスッとできる。

「ごめんなさい」の手紙を本気で書く局面というものがたまにありますが、そこではシリアスな印を押すわけです。しかし、そうではない「ごめんなさい」もある。むしろ、日常のコミュニケーションでは「ごめんなさい」であふれている。そこに着目したことに共感しました。イラストレーションも、いいところをついたグラフィックです。「原」で欲しいです。(原)
深澤賞
松岡 諒
Ryo Matsuoka

色々な持ち方に対応できるはんこの提案。薄い形状にすることで、手の中で安定する場所が増え、形状から方向が分かりやすく、持ちながらでも印の傾きが確認しやすい。

印を押すという行為は結構、緊張感がある。完全な丸に押したいという思いがそうさせるのだと思う。ハンコは、几帳面さが付きまとうオブジェクトだということを、僕は意外とまともに考えたことはなかった。そんなことをこのプロダクトを見て思ったし、ちゃんとずれずに押せた。支点が下がったことで、安定したのだと思う。(深澤)
三澤賞
内海 篤彦
Atsuhiko Utsumi

ペンやはさみなど、他の文房具と違和感なく共存する長い印鑑の提案。印鑑のサイズは「印を押す行為の社会的な意味」や「人の手のサイズとの関係性」によって 導き出されたものだと考え、「人の手のサイズとの関係性」よりも「他の文具との関係性」に注目。

プロダクトとしての精度は甘いですが、ケースに収まっている格式高いハンコとは違う、文房具のファミリーとして持てる気楽さが新しいと思いました。ハンコにも、ラフさがあってもいいですよね。(三澤)
特別審査員賞
羽田 真琴
Makoto Hada

卒業記念でもらうハンコを自分でデザインするプロジェクトの提案。ハンコの歴史文化を学び、オリジナルの印影を考え、製造会社の工場見学に行き、ハンコを完成させる。学び、創り、使うことで特別になり、こころが宿る。

子どもが最初にもらうハンコが学校の卒業式というケースは多いです。この提案は、シヤチハタの工場に来てもらって、ワークショップで自由に作って、世界に一つしかない自分のハンコを持って帰ってもらう体験が作れるなと思いました。ぜひ具体的に我々のPR活動にも取り入れたいですね。(舟橋)