中村賞
田羅 義史
Yoshifumi Tara
三澤 萌寧
Mone Misawa
若田 勇輔
Yusuke Wakata
チーム名 : ta_rabo

毎年開催されるコンペですが、「こころを感じるしるし」というテーマは例年以上に当たり前でありながら本質的な問いを提示された印象を受け、新しいチームで取り組みたいと思い応募しました。
忙しい現代人の日常のなかで、普段やり過ごしてしまう行為に心を配って彩りを添えることで、相手の思いやりを感じ、自分自身の心も見つめることができるのではないかと考えたのが根底にあるコンセプトです。
制作プロセスとしては「心を感じる」と思うメンバーそれぞれの主観的なアイデアを持ち寄ると同時に、過去の事例も考察。テーマに添ったアイデアになっているか、瞬間的な体験の先に、本質的な生活の豊かさに繋がるアイデアになっているかを考え、客観的に議論しながら組み立てました。一時的にブームになる雑貨ではなく、長く生活に根ざす作品を目指して製作しました。
デザインのディテールを考える際、テープを剥がして2枚に分かれたとき、柄のバランスが良く、江戸切子のように美しくなるようにこだわりました。苦労したのは、剥がしやすさの検討の際に、微妙な差で剥がすことが煩わしくなってしまうところです。

原賞
都 淳朗
Atsuro Miyako
太田 壮
So Ohta

書類上における無機質なコミュニケーションにおいて、人の存在や気遣い、互いの関係性を再構築するような機会を生み出すことが「こころを感じるしるし」なのではないかと、今回のテーマを解釈しました。
「こころを感じるしるし」からピクトグラムを連想し、ハンコとの掛け算でアイデアを展開しました。そこで見つけた「こころ」を十分に伝えきれていない「訂正印」に着目し、今回のアイデアに昇華させました。見た人がクスっと笑えるようなユーモア溢れるコンセプトとグラフィックを意識しつつも、プロダクトとしては適度な緊張感を持って、謝罪という行為自体を軽んじないようにするバランス感を大切にしました。
印影のグラフィックだけで謝罪の微妙なニュアンスが伝わるようなデザイン、プロダクトとしての佇まいにこだわっています。全く同じ状態で製品化しようとすると、色々な問題があるだろうと悩みましたが、コンセプトやアイデアの可能性を伝えるデザインを優先しました。
普段から二人で制作を共にする機会が多く、そのときどきで役割も柔軟に変化しますが、今回は、都がプロダクトデザイン、太田がグラフィックデザインというように分担し、互いに意見交換をしながら進めました。

深澤賞
松岡 諒
Ryo Matsuoka

テーマの「こころ」を、プロダクトを使う人への配慮や気配りだと解釈しました。不便を感じない物に出合ったときや、細かく丁寧なものづくりを見つけたときに、私は感動します。そういった物の背景にある、作った誰かのこころを感じた気になり、とても嬉しくなります。そのため、使いやすさにこだわるプロダクトの提案をしてみたいと考えました。
この提案が生まれたきっかけは、「ハンコを押す」際の持ち方が親指、人差し指、中指の三本指での持ち方しかないことに気がついたことです。実際にいずれかの指が使えない想定でハンコを押そうとすると、非常に難しいことがわかりました。そこで、なるべく多くの状況に対応できる形状を探しました。
特に大切に作り込んだのは、大きい曲面部分です。指と指の間でしっくりくるか、関節が触れても痛くないかを検証するために、何度も3Dプリンタで出力しました。また、提案名も慎重に考えました。例えば「つまみはんこ」にしてしまうと、これはつまむ以外持ち方がないんだな、というように捉えられてしまうからです。
最終的には、実際に審査員の方々が模型に触るとき、提案の良さを見出してもらう方法を悩みました。重要なのは模型そのものだったので、説明文を短くし、さまざまな持ち方ができることを写真で表現しました。

三澤賞
内海 篤彦
Atsuhiko Utsumi

SNDCはテーマそのものが魅力的な「問い」になっており、毎回楽しみにしています。今回は「問い」を頭の片隅に置いて生活するなかで自然とアイデアが生まれ、自然な流れで応募いたしました。
印鑑の周辺にも、まだ誰も気づいていない何かがあると感じていました。印鑑の素材を変えたり、サイズを変えたり、反転させたりとさまざまな可能性を探るなかで、軸を伸ばした長い印鑑が手に収まらないことが面白く、手と印鑑のサイズの関係性を相対化するような提案を組み立てました。
コンセプトが固まる際、亡くなった祖父母のかつての生活にこの作品が佇むイメージが浮かびました。実印のような「重い」印鑑ではなく、認め印のような「軽い」印鑑として、60年程前の質素な生活のなかにあっても違和感のないイメージです。どの家庭にもあったかもしれない印鑑のあり方として、自然と日々に溶け込むような簡素な佇まいを一番大事にしました。
こだわったのは、軸の長さ以外の提案を極力排除し、周辺に新たな文化やプロダクトが生まれる余地を残すことです。模型製作では、地元の老舗はんこ屋さんに相談することから始めましたが、軸を伸ばすような加工はできず、シヤチハタフォントで注文した印鑑を自力で加工し、模型を仕上げたため苦労しました。

特別審査員賞
羽田 真琴
Makoto Hada

こころを「表す」と「感じる」の違いに向き合い続けました。そもそもハンコにこころを感じるかを考えた際に、私が初めて手にしたハンコは粗品のようなものだったことに気づきました。初めて手にするハンコを特別なものにできないか、それが「こころを感じるしるし」にならないかと考えを進めました。
「粗品のようなもの」だと感じた原因は、ただ与えられることによる思い入れの無さにありました。自分事になることで特別にならないかと考え、ものにこころを宿していく過程をプロジェクトにできないかと思い始めました。
プロジェクトとして組み立てるなかで、子どもたちが楽しめるかどうかの視点を大切にしました。最初に考え始めたのは、ハンコに意識を向けるための導入部分です。どんなに気軽に契約できる時代でも押印の意味は変わらないため、ハンコの意味や役割を学ぶ必要があります。次に自身のハンコの印影を創り、それが創られる現場を見学し、そしてできたハンコを使うという体験を通して、ハンコに特別なこころを宿していけるように考えました。
オリジナルのハンコを作るだけであれば、世の中にいくらでもサービスはあります。対象の規模も含め、学びやものづくりの現場見学など、シヤチハタというメーカーだからこそ可能な強みであり、プロジェクトになると思いました。

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