―― グランプリの受賞おめでとうございます。どのようなプロセスでアイデアを出しましたか。
今回はずっとこもって、ひたすらテーマと向き合い続けました。「思いもよらない」というテーマから最初は考えていましたが、引っ張られすぎるとありきたりなものしか思いつかなかったので、しるしの本質を自分なりに解釈し、最終的に「思いもよらない」ものとしてブリッジできそうなアイデアにしていきました。
―― 普段のお仕事とデザインのつながりはありますか?
ブリヂストンの社内ベンチャーで、柔らかいロボットの事業をしています。大学ではデータサイエンスを学んでいたのですが、ものを作る側になりたくて、大学院には進まずに企画やマーケティングの仕事で入社して、現在に至ります。自身のデザインの活動とは直接的な結びつきはないのですが、デザイナーと一緒に仕事をすることも多く、第一線の方々の考え方やこだわりの姿勢から刺激受けるところもあり、自分でもいろいろ作れるようになりたいという刺激が個人の活動に間接的にはつながっています。
ちなみにSNDCへは、今年からデザインの専門学校に通い始めて、みんな出す雰囲気だったので応募しました。学校にポスターが貼り出されたり、先生からも登竜門的なコンペだからと勧められたり。なので、特に深く考えずに出しました。
―― デザインの専門学校に通い始めたきっかけはあるのでしょうか。
新規事業を考えるなかで、自分のなかですごく面白いと思うアイデアがあったとしても、実際に形にするときは、誰か作れる人に話して理解してもらわないといけなくて、自分では作れないもどかしさがずっとあったんです。海外赴任していたことがあり、単身で行っていたのですが、場所柄もあって週末がものすごく暇で。それで自分でCADで遊んでプリントして謎のオブジェを作るようなことを始めて、日本に帰ってきたときにすぐ願書を出しました。夜間でプロダクトを学べるというところはほぼなかったので、学校も自然に決まりました。
―― 他にもアイデアはありましたか。
実は今回2つ応募したのですが、本命の方は一次で落ちてしまいました。どちらもベースの考え方は一緒で、「思いもよらない」ことを一度忘れて「しるし」に向き合い続けた結果できたアイデアでした。自分だけの、自分たちだけのしるしという文脈で発想したのが起点です。
少年時代、公園で遊んでいたときに友達と「ここを俺たちの秘密基地にしようぜ」って、ゴミなどを木に巻きつけていて、それはまさに自分たちだけのしるしでした。ほかの人にはわからないものだけれど、しるしの本質的な一面だなと。誰にとっても同じように理解される、たとえば道路標識のような、わかりやすいものが現代のしるしとして機能的に目立つ部分ですが、その逆もあるよねと感じたのです。
―― 最終的な形状にはどのように落とし込みましたか。
わりと自然と出てきました。先述したベースの考えから、自転車に乗っているときに気持ちが動いた瞬間を残せたらいいなというアイデアが生まれました。同時に、多分ハードウェアだけではこれは実現できないなとも考えました。仕事でも新規事業を日本国内外で扱ってきたので、ものだけでなく、ユーザビリティも含めてどういうスキームがあるとユーザーが喜ぶか、と考える癖があるのかもしれません。
―― 秘密基地のような「自分たちだけのしるし」を起点にして、いろいろなアイデアを考えたのですね。
本当に一貫性はなくって、あっち行ったりこっち行ったり。たとえば、犬について調べていた時期もありました。犬のおしっこは、犬同士の一つのコミュニケーション手段らしいのですが、人間にとって「しるし」だなんて思いもよらないので。思いついた具体的な内容を深掘りしていったのですが、ベースは同じでした。でも犬は難しかったですね(笑)
―― 具体的に、受賞作品について教えてください。アイコンの「!」はどのような理由で選んだのですか?
これは「お!」の、びっくりです。自転車に乗っていると、いろいろな心の動きの方向がある気がしています。「おお!景色綺麗!」みたいなのもあったり、ちょっと素敵なカフェやレストランを見つけたときの「おっ!」みたいなのもあったり。いろいろな「お!」があって、その一番プリミティブなところは言葉ではなくて、「!」がいろんな心の動きに対してしっくりくるかなと。あまりそこは迷わなかったですね。
―― すごく悩んで生まれたというよりは、ストレートに出てきた形状だったのでしょうか。
そうですね。ものの形状やスタイリングの部分は全然時間をかけていなくて、コンセプト部分にほぼ時間を割いて、その上でナチュラルでシンプルなものが一瞬で出てきた感じです。ちなみに応募段階のパネルではCGでしたが、二次審査のタイミングでモックを作ってからは、実際に自転車につけて遊んでいます。一応、Bluetoothで携帯電話につながるんですよ。アプリまでは開発していませんが、中の基盤は自撮り棒のシャッターボタンを改造しています。仕組みとしてはとてもシンプルな機構です。
―― 今回のアイデアでこだわった部分はありますか。
僕は今までそこになかった新たな意味を生み出すことが好きなので、今回もものだけでなく行為も含めました。意味や価値を提案できるアイデアを出すことに時間を費やしています。 大企業の新規事業って「うちでやる意味あるの」とか「他の会社でもできるんじゃないの」とかって突っ込まれるのがよくあるジレンマなんです。だから自分なりに新しいものに対する意味合いを解釈して、意味を付けるというのは、癖になっている考え方かもしれません。
―― 商品化するとしたら、変えたい部分などはありますか。
スタイリングはさっき話してバレてしまっているように、そんなに追求してないので、改善の余地はあると思います。「!」のアイコンにするかどうかも、デザインプロセスとしてユーザーリサーチなどをする方がよいかもしれません。商品化できたらいいですよね。自分自身もあったらいいなと思いますし、国外でも盛り上がりそうですし。
―― 仕事しながら夜間に学校に通ってコンペも出して、大変でしたね。
そのあたりは気合いですね(笑)今回は少し腕試しみたいな気持ちもあり、デザイナーの方に自分のアイデアを評価してもらう機会という視点もありました。自分自身はデザイナーと呼べる立場にはないと思っていて、もっと経験値を積みたいです。コンペなども出しつつ、世の中に自分のデザインしたものが届けられるようになればいいなと思っています。
Profile : 中山 大暉(なかやまひろき)
取材・執筆 : 角尾 舞
撮影 : 加藤 雄太