―― グランプリの受賞おめでとうございます。普段のお仕事や、SNDCへの応募の動機や理由から伺えますでしょうか。

普段は自動車業界でデザイナーをしています。車に関するデザインを毎日していますが、たまには違うものをデザインしてみたいなと思い、今年からコンペティションに挑戦してみました。ありがたいこ とに4つのコンペティションに応募し、3つで受賞させてもらいました。大学を卒業して4年目ですが、SNDCは学生時代から登竜門的な存在として気になっていました。

―― すごいですね。普段のお仕事とはどのように調整しながらコンペティションへの提案を進めましたか。

ゴールデンウィークやお盆休みなど、長期休暇を制作に充てる時間にして、短期集中型で作りました。

―― 今回のテーマである「可視化するしるし」をどのように捉えてデザインされたのでしょうか。

可視化して嬉しいもの、かつ意外性のあるものを提案したいと思いました。ストレートにいくと、紙に何かを押すようなアイデアを出しがちだと思いますが、あえて逆の方向から攻めてみようと考えました。でもこれまでの受賞作品を見ていると、デジタルを介したようなアイデアが評価される傾向にあるのかなと感じていて、今回のクラッカーはすごくアナログな提案だったので、まさか入賞するとは思っていませんでした。

―― 普段はどういうプロセスでアイデアを出しているのでしょうか。

「アイデア出しをする時間」としてしっかり予定を組むのではなく、こういうテーマのコンペがあるんだな、という情報を頭の片隅に置きながら生活をして、そのなかで料理を作っているときや、運動しているときにふと思いつくようなかたちでアイデアを出しています。



―― 「めでたいん!」はどのような発想の順序で生まれたのでしょうか

まず「紙にハンコを押すこと」から考え始めたのですが、印鑑を捺す行為ってどこか厳かな雰囲気がありますよね。だからその真逆をついてみようと思いました。紙ではない場所に対して、盛大に、華やかにスパークするような「しるし」をつけたいと。そのようなシチュエーションはどこかなと考えたら、パーティが思いついたので、そこから発想を膨らませました。大学生の頃、友達の誕生日パーティーで、その子が入ってきた瞬間にクラッカーをパーンって鳴らしたシーンを思い出しました。クラッカーを鳴らす行為自体がサプライズですが、驚かしたり、喜ばせたりするためにもっと何かできるのではないかと考えました。紙吹雪に名前を入れられたら、鳴らす方も準備のし甲斐があると思いましたし、受け取った側も「自分の名前が入ってる!」という喜びを感じるのではないかなと。

―― デザイン面で工夫したのはどこですか。

一番のアピールポイントは「空間にハンコを押す」ところです。プロダクトによって特別な雰囲気を作り出せるのが魅力だと思っています。パン!と音が鳴って、名前が飛び出して、部屋中にお祝いされる人の名前が散ることで、その人にとって最高の瞬間を実現できます。使い終わった後に、部屋中に名前が散っている空間が生まれて、嬉しいけどちょっと恥ずかしいような、そんな気持ちもひっくるめて、その人の良い思い出として残ればいいなと思ってデザインしました。

―― 他にこだわったポイントはどこでしょうか。

紙吹雪が出たときに、より華やかに見えるようにと気を使いました。最初はシンプルに、名前の入った赤い紙吹雪だけにしようかと考えたのですが、クラッカーにはやっぱり華やかさが必要だなと思い、金のキラキラする素材を使いました。「めでたいん!」というネーミングにしたので「めでたい」の「たい」の部分にかけた鯛のイラストを使ったり、「あっぱれ」をイメージさせるような扇子のイラストを入れたり、グラフィックも試行錯誤しています。中に入れる量も何回か試して調整しています。紙吹雪が少ないと華やかさにかけるのですが、入れすぎると重たくて飛ばなくなってしまうことがわかりました。 またこれは少し細かいのですが、普通のクラッカーは開口部の上の蓋の部分が花形に折ってあるのですが、「めでたいん!」は蓋がパカッと火薬と一緒に飛んでいく形になっています。審査員の方に、その部分にも気づいていただけて嬉しかったです。ガチガチに固定してしまうと飛ばないので、どれくらいだと飛ぶだろうかというのも試しています。



―― 制作のなかで大変だったのはどのようなところでしょうか。

クラッカーのメーカーさんの協力を受けて試作品を作ったのですが、自分がマンションに住んでいるので、クラッカーを鳴らす場所がなかったのが実は大変でした。何回も家の中で試すと隣人の迷惑に なってしまうので、田舎の祖母の家まで行って試していました。

―― 審査会用のモックアップを「岡崎」で作っていますが、理由はありますか?

一つ目の理由は私が岡崎さんのファンなので(笑)。岡崎さんの作品を普段から見ていて、動的な作品が多いイメージがあったので、審査員の方の中でも岡崎さんしかいないなと考えました。もう一つは、5つ鳴らせるクラッカーを用意していたのですが、審査員の皆さんが岡崎さんに向けてパーンって鳴らしていただいて、盛り上がったらいいなと考えて、岡崎さんにさせていただきました。

―― 普段、お仕事でデザインするときと違う部分はありましたか?

根本的なところは多分一緒だと思いますが、普段の仕事の自動車関係のデザインは制約がすごく多いので、「自分の色を出して自由に発想していいよ」というのは仕事のデザインと違うところです。これからもコンペに出して、小さなものから大きなものまで、多岐にわたってデザインしたいと思っています。いつかはミラノサローネに出展したいので、今回の賞金もその費用に充てたいと考えています。


―― 最後に、これから応募を考えている方へメッセージをお願いします。

宝くじを買うくらいだったら、デザインコンペは頑張れば頑張るほど勝率が上がるので、出して損がありません。腕試しにもなりますし、自分のスキルも上がります。しかも認められれば賞金がいただけたり、SNDCの場合は審査員の方々の印の入った表彰状をもらえたり、1対1でお話ができたり、豪華な経験をさせていただけるので、デザインを専攻されてる方は絶対出すと良いと思います。

Profile : 榎本 千紘(えのもと ちひろ)
取材・執筆 : 角尾 舞
撮影 : 井出勇貴