高校時代に友達が、貸した本をブランドの小さな紙袋に入れて返してくれたことを思い出したことが今回のアイデアのきっかけです。ラッピングするほどではないけれども、一つ加えるだけで、「ありがとう」の気持ちが伝わるようなものが作れないかと考えました。 水引をモチーフにした理由は、白地に赤という配色だけで、お祝いごとや感謝を感じる日本人の感覚が面白いと感じたためです。調べるなかで、水引で最も重要なのは「結び留める」という動作だとわかり、身の回りの「結ぶ」ものを探して思いついたのが結束バンドでした。 苦労したのは、二次審査の模型制作です。塗装した状態で従来の結束バンドのように曲げられるようにするのが難しく、モック制作会社の方と検討を重ねました。造形の方法を模索していたところ、シリコンなら可能だったので、実際に曲げられるシリコンの模型と、光造形プリンターで制作した硬い模型の2種類を用意し、赤色部分はエアスプレーで自分で塗装しました。従来の結束バンドとは留め具の向きを変え、結んだ状態で一番美しく見えるようにしたり、結束バンドの表面に水引の束を意識して溝をつけたりと、細かい表現にこだわってデザインしています。
デザイナーとしてのキャリアは長くなってきましたが、難しい課題に挑戦し、アイデア出しを楽しむことは魅力的なので、創造力を養うために応募しました。 今回のテーマを「普段は見えていないけれど、可視化することで何らかの価値が生まれるしるし」と捉え、思いついたのが折り紙です。まっさらな紙についた折り目は「可視化されたしるし」と言えるのではないかと考えました。また、折り上げた完成品の各面に陰影を強調したグラデーションが施されることで、立体感と趣が生まれるのではないかと思いつきました。 折る前の状態と完成時の陰影を美しく両立させるため、グラデーションの向きや強弱を何度も調整しました。紙の選定やインクのにじみ具合を検証し、印刷しては折るという作業を繰り返しました。ツルのほかにも、カブトやセミなど、提案しなかったアイテムも含めると、作業量は膨大になりました。 試作を重ねるうちに、提案の主役は折る前の平面の状態の紙であることに気づきました。この平面のグラデーションを美しく、かつ折り線のしるしとして機能するように慎重に配置しました。完成時にはしるしの存在が消えることも、この作品の面白いポイントだと感じています。
私たちはプロダクトデザイナーとグラフィックデザイナーの夫婦ですが、普段共同で制作することはありませんでした。せっかく専門分野の異なる二人なので、一緒に何か作れたら面白いと考えて挑戦しました。 「可視化」を「見えないものをわかるようにする」ことだと捉え、視覚にこだわらず可視化の手段を探し、見えなくても触ってわかるようなしるしを思いつきました。 アイデアが生まれたきっかけの一つは、昨年生まれた息子の育児です。暗闇で照明のスイッチを探したり、毎日初めに押すテレビのリモコンのボタンがあったりと、触っただけでわかるしるしがあると便利だと感じ、手軽にそのようなものが付けられるプロダクトのアイデアを考案しました。 しるしの形や大きさ、厚みなどについては、触覚のデザインを研究している友人のアドバイスももらいながら、試行錯誤を重ねて最適なものを探しました。目の見えない方の利用は念頭にありつつ、一般の方々も日常生活で「触って確かめる」機会はたくさんあると思います。どんな人にも優しく寄り添えるよう、こんな製品が一般家庭にあたりまえに置いてある未来をイメージしてつくりました。
「可視化」というテーマは普段のデザインでも考える機会が多かったため、今回のコンペティションに興味を持ちました。新しい何かを生み出すのではなく、既存の何かが可視化されることで新たな価値を見出すことと解釈しました。さまざまなアプローチを検討しましたが、最終的には原点に立ち返り、直観的にわかりやすいアイデアを目指しました。 構想を練るなかで、ふとシヤチハタ印がどのような構造で動いているのか気になり、実際に分解してみました。その際、ミニマルで必然的な構造に魅力を感じたのがアイデアのきっかけです。そのまま可視化することで、ものとしての新しい魅力や使う楽しみを引き出せないかと考えました。 二次審査用のモックアップは、実際に動いて使えるものにしたかったため、モック製作に詳しい知人に相談しつつ、シヤチハタ印の部品を地道にノギスで測って3D図面化していきました。コンセプトである「構造の可視化」に徹するため、朱肉やスプリングなどは可能な限り既存部品を使い、加飾のないシンプルな透明ケースに仕上げることを心がけました。透明材の肉厚を確保しつつ、通常のシヤチハタ印同等のサイズ感に抑えた点もこだわりです。
「しるし」という3文字にあらゆる角度から提案が集まるこのコンペに面白さを感じ、挑戦しました。今回のテーマに対して私たちは、人の遊び心のようなものを可視化させたいと考えました。「こっそりやってしまう」行為を、道具によって「ちょっと見える」ようにするアプローチを思いつきました。 たとえば、本を貸すときに「あとで感想教えてね」という紙を忍ばせたり、手紙の最後にくだらないギャグを残したり、こっそりメッセージを忍ばせるような行為に面白さと、どこか日本人らしさを感じていました。これを道具として形にしたかったので、箱の隅にしるしを残すスタンプを考えました。 かなりの時間をかけたのは、箱の隅に押せるようにするための、ハンコの面の角度や絵柄の調整です。持ちやすく、力を入れやすい持ち手の形状にするために、50個ほどのプロトタイプを作成しました。 箱を開けたとき、隅にひっそりと隠れたしるしを見つける体験が、どこかほっこりするプロダクトになったと思います。モノそのものの存在はもちろんですが、あえてこっそりと残されたしるしに宿る、送り主の遊び心に思わずクスッと笑えてしまう、そんな体験設計にこだわりました。
元から文字や言葉に興味があり、意味や造形、色や雰囲気など、文字や言葉が持つ派生的なものや根源的なものを抽出できないかと日々考えていたのがアイデアのきっかけの一つです。また、今回の作品においては、自分自身、本音の気持ちを伝えるのが苦手ということを課題にして、素直に答えを出そうとしたのが源泉です。 モックアップを検討するなかで、型で抜けるのかが問題点でした。金属型の作成が難しかったため、食品用シリコンで代用し、上手くいけと念じながら、型から出てくるものを信じました。 気持ちを伝えるのが不器用な方に、何か媒体を一つ通して素直になるきっかけになればいいなと思っています。コミュニケーションの少しだけ助けになる、ちょっと不思議なもの、愉快なものになっていたら幸いです。 表彰式の後、審査員の方に「『ありがとう』は綺麗すぎるよ」と言われ、痛いところを突かれた!と思いました(笑) 。そのあとで「『好きになれよ!』くらいの方がいい」と助言をくださり、面食らいました。気持ちの根源的なことや、ストレートな言葉の強さや勢い、力ってあるなと気付かされました。いいパンチをもらえて、個人的にすごく嬉しかったです。