アプリを活用し、手書きのサインを手軽にハンコにできるサービスシステム「JITSU-IN」で準グランプリを受賞した石川和也さんに、アイデアの源や開発の背景についてお話を伺いました。 ――「JITSU-IN」は、まさに「これからのしるし」でありながら、すぐにでも実現できそうなリアリティのある提案でした。発想の糸口はどこから? 印鑑のあの形は、昔からいろいろ考えられた上で今日まで受け継がれているのだろうし、これから先も残るんじゃないかと思うんです。であれば「これからのしるし」に求められるのは、あの形の中で個別化することかなと考えました。今は100円でもハンコが買えるし、同じ苗字の人同士でハンコの貸し借りもできる。でも、それが本当に自己証明の“しるし”になるのか?もし、世界で一つだけのハンコを一人一人が持てれば、それが最適なしるしになるんじゃないかなと思いました。そう考えた時に、自分の個性や性格が表現されていて、かつ自分しか持っていないものといったら、手書きの筆跡かなと。僕は、石川は石川でもテキトーな石川なので(笑)、手書き文字でハンコをつくるなら、これ何語?みたいな、ササッと線に近いような字でつくりたい。それが一番自分を個別化できると思うし、“しるし”はその人がにじみ出たものじゃないと意味がないと思うので。それをすべてアナログでやるのではなく、今あるアプリを使って簡単につくれるサービスシステムができれば、世の中にすんなり浸透するんじゃないかなと考えました。 ――工夫したところ、苦労したところはありますか? 模型用のハンコをつくるのに、石川の文字をどう書けば見栄えがいいか、何回も書きました。苦労したのはプレゼン用の動画ですね。デザイン自体はシンプルなので、迷うことなく形にできたんですが、アプリ画面はモノだけだとどうしても説明できないので、操作方法の見せ方を動画にしたんです。それをつくるのが一番大変でした。 ――お仕事もデザイン関係ですか? IT企業でコーポレート・ブランディングに関わる仕事をしています。アプリ画面のデザインなどもやっていたので、その経験が役立ったかもしれませんね。みんなが使うものほどシンプルであることがマストなので、今回もユーザーがストレスを感じないよう、わかりやすい操作方法を考えました。 学生時代はプロダクトデザインとカーデザインを専攻していました。所属していたゼミでプロダクト系のコンペに出したら、いきなり入賞したんです。そこからコンペの面白さにはまり、在学中から1人で、もしくは友人と2人で、いろいろなコンペに応募しました。アルバイトの代わりにコンペの賞金で生計を立てていた時期もあります。でもプロダクトデザインばかりやっていた時より、社会人になって幅広く経験してからのほうが、通る確率は高くなりましたね。 ――SNDCへの出品は今回が初めてですね。応募しようと思った理由は何だったのでしょうか? 賞金も豪華なら審査員も豪華なので、あの方々に認めてもらえたらいいなという力試し的な感覚でした。コンペに出す時に心掛けているのは、審査の“色”を分析すること。ちょっとゆるい、ダジャレに近いアイデアが歓迎されるコンペもあれば、地味だけどあったらおもしろいなというアイデアが評価されるもの、正統派でプレゼンシートの精度も重視するものなど、コンペによって傾向が違うんですよ。それを把握し、その中で幅のある案を複数出すようにしています。今回は3案出して、一番自信があったのが「JITSU-IN」でした。 ――アイデアはどんな風に思いつくのですか? 考えることが好きなので、普段から無意識のうちに身の回りを観察していて、こんなのができたら面白いだろうなとか、これをこうしたら便利なんじゃないかとか、思いついたことはひたすらメモ帳に書き留めています。それを通勤の電車の中とか時間がある時に、読み返して深掘りするんです。コンペに出す時は、そのストックの中から、こういうテーマならこれが使えるなとか、これとこれを組み合わせてみようとか、そんな感じです。 ――石川さんにとってコンペに参加する意義とは何でしょう? 出会いがあること。カーデザインを専攻しながら自動車メーカーに就職せず、今の会社に決めたのも人が決め手だったんですが、SNDCの授賞式で出会った人たちも魅力的でした。会社も分野も年齢もバラバラなのに、みんなデザインに興味を持っていて、しかも独特なので、話をすると楽しいんですよ。すごくモチベーションが上がりました。自分に刺激を与えてくれる人との出会いは貴重だと思うので、そのつながりは大切にしたいですね。   Profile 石川 和也(いしかわ・かずや) デザイナー 1990 年生まれ/東京都在住   執筆:杉瀬由希 撮影:稲葉真