北島 鮎
Ayu Kitajima
鹿島 理佳子
Rikako Kashima
2人とも親元を離れて一人暮らしをしている環境から「空間的に隔たりがあっても、相手とつながる」というアイデアが生まれました。最終的には「ちょうどいい距離感で大切な人とつながる」プロダクトとして、照明器具を選択しました。現代ではスマートフォンで簡単に連絡はとれますが、そうではないつながり方を提案したいと考えました。
わざわざ見たり操作したりする必要はないけれど、なんとなく気配が伝わる形式とはなにか、2人で何度も議論しました。照明が陰るだけでは相手の存在感は感じられず、シルエットが具体的すぎるとビデオ通話との差がなくなってしまうため「気配」と呼べるくらいの存在感の試行錯誤をしました。
電子工作の実装は未経験でしたが、最終審査用には動く模型を作るしかないと思い、ChatGPTに相談し、Raspberry Piをまずは購入し、調べながらPythonのコードを書き、なんとか一カ月で実際に動く状態までできました。
自分たちにとっての理想形が明確にあったため、慣れないプログラミングコードを扱いながら、調整に時間をかけました。会場での設営に手間をかけないための仕組み作りも直前まで調整し、起動時のさまざまなエラーケースを事前に洗い出し、復旧方法を各種記載した設営マニュアルづくりにも注力しました。
マシモモモコ
Mashimomomoko
日本には、昔から受け継がれてきたユニークで、興味深い苗字がたくさんあります。今回は人と人をつなぐものであり、自分のルーツである先祖ともつなぐものである苗字を「しるし」として捉えました。しかし日本の苗字は多用な読み方があったり、難しかったりして、読み間違えられることも少なくありません。そこで、楽しみながら苗字の読み方を覚えられるカルタを提案しました。
「つながる」と「しるし」の2軸でアイデアを考えるなかで、たまたま円形のカードの写真を目にしました。「印鑑を押した状態のカードがあったらかわいいな」という発想をきっかけに、造形のアイデアとなりました。面白雑貨で終わらないような、デザインのトーンの塩梅に悩みました。ゲームの楽しさもあり、それでいてどこか洗練された雰囲気を取り入れたいと思い、余計な要素をそぎ落として「苗字」という存在を丁寧に扱い、印象づけようと試みています。シンプルなものなので、文字の滲みやインクのたまり具合など、一枚一枚微調整しています。また、印面はマットに仕上げた一方で、裏面は印鑑らしい質感を出すためツヤのある黒にしました。インクの色も微妙に差をつけ、オレンジに寄ったものから渋めの赤など、実は数種類あります。
濱口 真里
Mari Hamaguchi
学校の案内でこのコンペを知り、自分の力を試してみたいと思い応募しました。今回のテーマである「つながるしるし」を、人と人とのつながりとして解釈しました。手を握る、ほっぺたに触れるといった行為には、言葉よりも深い安心感や信頼の気持ちが込められていると思います。その肌のぬくもりを形に残すことで、想いをやさしく伝えられるしるしを提案しました。
そこから生まれたのが、人肌のようなやわらかさと、押したときに温かさを感じられるスタンプです。赤ちゃんのほっぺたを触ったときに癒される感覚や、握手をしたときの安心感を思い出し、その気持ちを形として残せたらと思い、発想を広げて制作しました。押した瞬間に広がるインクの表情を、手のひらにあたたかさが伝わっていくような感覚として表現しました。大変だったポイントは、触ったときに硬さを感じさせないくらいのやわらかさと、スタンプとしての機能の両立です。触感を確かめるモデルと、形状を確認するモデルを分けて制作し、シリコンの硬度を変えながら感触を比べ、にじみ方や押し心地を何度も繰り返し確認し、いちばん心地よく感じられる形を探りました。最終的には、どこか愛着のある形に仕上げられたところが気に入っています。
徳山 洋
Hiroshi Tokuyama
普段はインハウスデザイナーとして働いていますが、今回は出来るだけ個人的なものにしたいと思いました。ハンコを機能的な道具としてではなく「どういう存在であって欲しいか?」という問いから考え、そばに置いておきたい自分の暮らしに馴染むハンコを「つながるしるし」として提案しました。改めて自分の部屋を見渡すと、各地で手に入れた土産物や民芸品に目が止まりました。そこから「民芸品のようにそっと部屋の片隅に存在する、愛嬌のあるハンコ」というコンセプトが生まれました。
今回はほとんどスケッチはせず、丸棒や端材、紙粘土などを組み合わせながら造形のスタディをしました。ハンコの直径はおおよそ決まっているので、それに対して造形をわずかに変えるだけでも、プロダクトっぽくなったり、一体感が失われたりしてしまいます。民芸品らしいバランスを見つけるのに苦労し、多くの模型を作りながら最終形まで仕上げました。人々の記憶にある色合いも重要だと考え、一般的な民芸品に多く使われる色についてのリサーチもしました。ベーシックな鳥らしいボディだけでなく、小鳥の産毛のようなもこもことしたタイプも作りましたが、自分自身はこちらの方に愛着を持っています。
松村 佳宙
Yoshihiro Matsumura
SNDCには毎年応募していたので、今年も当たり前のように応募しました。今回のテーマについては、もともと持っているものの要素や背景を見つけ出して、人や空間、時間とつなげることだと捉えました。
私は印鑑を毎日財布の中に入れて持ち歩いていています。印鑑は自分を証明するものとして大切なものですが、その反面、関わりが限定的な側面があります。そこで昨今の災害の多発なども考え、笛としての機能を与えることで、いざというときに人と人がつながり、より大切なものとして機能するのではないかと考えました。動物たちが鳴き声でコミニケーションをとったり、人々が歌や楽器を通じて音楽でつながったりするように、音には人と人をつなげる要素があると感じました。
印鑑という大切な存在に適したマテリアルや重さについては、かなり悩みながら決めました。3Dプリンターで使われる一般的な樹脂素材ですが、光沢を抑えた金属に見えるような塗装をモック試作会社の方にしていただき、重厚感がある見た目にこだわりました。また、そのままでは印鑑の重要性に対して軽すぎると感じ、持ったときに意味を感じてもらえるように、錘をいれてわざわざ重くしてあります。
松尾 清晴
Kiyoharu Matsuo
過去の受賞作品を見ても「しるし」に対していろいろな捉え方がありますが、直感的に「つながるしるし」だとわかるものをつくりたいと考えました。今回の提案のコンセプトは「認識がつながる」です。仕事でも日常生活でも互いの思いをつなげることは難しいと感じており、それを具現化できたらと思い、アイデアを練りました。
仕事で製品のキズや汚れのメモ代わりにマスキングテープを使っていたことがヒントになり、「目印になるしるし」が必要だとひらめきました。「矢印」と「テープ」という二つを組み合わせ、テープを切るたびに矢印の先端を印字する機構を与えました。ボディは3Dプリンターで出力し、それ以外は手加工と既存製品で制作しています。特に、テープに乗っている1mm幅の朱肉の線は、一度テープを引っ張り出し、その上にマスキングしながら朱肉を付着させた後、もう一度巻き取るという作業で苦労しました。しかも、マスキングテープには朱肉が乗せられないことがわかったときは、とても焦りました。最終的に付箋テープに変えることで解決しました。提案から模型制作まで、考え、悩み、苦しかったですが、最後は楽しく提案できました。これからもデザインを通して精進していきたいです。