大きな土俵がしるされたレジャーシート「どすこい!シート」で準グランプリを受賞した千勝美南さんと中嶋琴子さんによる、チーム「KO-MI」。大地に刻印するような大胆なアイデアが生まれた経緯や意図を伺いました。
―― この度は、受賞おめでとうございます。まずは簡単に、お二人の自己紹介から伺ってもよろしいでしょうか?
中嶋 私は現在、ブランディングデザインの会社に務めていて、主にグラフィックデザインを仕事にしています。2人とも新潟の長岡造形大学出身で、千勝さんとは大学1年生のときに出会いました。私は視覚デザイン学科の出身です。現在、社会人2年目です。
千勝 私は彫刻科出身で、デザインの仕事ではないのですが、ものづくりに関わる企業で働いています。

―― ありがとうございます。それでは、応募のきっかけから教えて下さい。
千勝 デザインコンペのまとめサイトを調べていて、SNDCが目に留まりました。コンペに2人で応募するのは初めてですが、私から中嶋さんを誘ったのがはじまりです。今私は仕事でデザインには関わっていませんが、大学での学びを継続したい気持ちがあり、積極的に参加しようと考えていたところでした。
中嶋 誘われてから調べてみて、審査員がずっと憧れている方々ばかりで、自分たちの作ったものを見ていただけたらすごく嬉しいと思い、挑戦することに決めました。

―― 「つながるしるし」という今回のテーマをどう解釈されましたか?
中嶋 2人とも公園が好きなんです。普段街にいるときは、多くの人が知らない人とは距離がありますが、公園にいるとちょっと境界線が柔らかくなる気がします。子供が駆け寄ってきたら、そこから会話が始まるような、最近は見られない「つながり」が公園にあるなという認識が2人ともにありました。そういうふとした瞬間に出合える関係のなかで、新しいコミュニケーションが生まれるものを作りたかったのかなと、振り返るとそう思います。
千勝 話し合いをたくさん重ね、いろいろな方向性が生まれたのですが、私たち2人で作るからこそ出せる自分たちらしさを考えて、この作品の方向性を決めました。はじめの頃、私が「ひろい空間に大きなラグのようなものがあって、それをしるしとしてどうにか人々が関わるものをつくりたい」というイメージを出したのですが、そのときはうまく広がりませんでした。
中嶋 最初に千勝さんからその話を聞いたときは正直まだピンとこなくて、一回先送りになりました。でも「土俵」と結びついたとき、商品として成立できそうだなと感じました。
千勝 プロダクトとしての輪郭が全くみえない状況から、「レジャーシート」や「土俵」を持ってくることで、イメージが形になりました。
中嶋 ウェブに審査員の方々のインタビューが掲載されていて、大西麻貴さんが今回のゲスト審査員として入られることを知りました。最初から大きくしようと思っていたわけではないですが、手のひらサイズじゃなくてもいいんだ、という認識でアイデアを考えられた部分もあります。

―― 最終的に土俵に至ったのはどうしてですか?
中嶋
ある日、私が思いついたんです。会社の代表が海外出張に行ったとき、公園で作業をしていたら、近所のおじいさんたちが周りに集まってきて、将棋のようなゲームをし始め出したというエピソードを教えてくれました。公の場所に将棋盤のしるしがあると、駒さえ持ってくれば集まって一緒に楽しめますよね。
そういうものが他にないか考えたとき、土俵は「しるし」として誰がみてもわかる場だなと思ったんです。将棋のように駒も必要ないですし、すごくフィジカルで、つながるというテーマにも合うと感じ、最終的な提案に行き着きました。思いついてすぐにLINEで、「土俵を作りたい」って千勝さんに送りました。
千勝
2人で何かものを作るときは、私の漠然としたアイデアを中嶋さんがデザインに落とし込んでくれるスタイルになってきています。今回もそのような感じで、土俵というものを中嶋さんが持ってきてくれて、私はいいね!と同意しました。
学生時代から別々の領域を学んでいて、私ができないことを中嶋さんにやってもらったり、中嶋さんは私と話すなかで別のアイデアを得たり、そのような関係性でした。
―― 2人でコンペに参加してよかったところはどこですか?
千勝 私の場合、きれいなプレゼンテーションシートは作れませんし、1人ではなかなかアイデアが進まなかったり、形にならないで終わってしまったりということがあります。でも2人だったから、最後まで諦めずにきちんと提出できたと思います。
中嶋 私はそもそも誘われて参加を決意したのですが、自分にはちょっと意志が弱い部分があるので、多分1人だと間に合わなかったと思います。2人でやると決めたから、やらないわけにいきませんでした。それからアートとデザインという違う分野を学んで来た人たちが一緒にものを作る機会もあまりないので、それが純粋に楽しかったです。
―― 苦労したところはどこですか?
中嶋
2人とも立体のプロダクトを製品として作る経験や知見はもともとないので、アイデアを考える時点で印刷をベースにしてクオリティ高く制作できるものにしようと決めていました。レジャーシートならばグラフィックデザインをベースにして、印刷会社の方に依頼すればきれいなものがつくれると思ったんです。
ただ世の中にはいろんなシートがあるので、印刷会社の方からサンプルを集めて、よりレジャーシートっぽくて重すぎない素材探しをしました。またレジャーシートとして使いやすいサイズかつ、大人2人で相撲ができる大きさの検討もしています。
―― 審査員の中村勇吾さんがすごく「どすこい!シート」 を推薦していましたが、中村さんが表彰式で話されていたような「地面に刻印する」ような部分は意図していましたか?
中嶋
まさにデザインするときに、そこを考えていました。シヤチハタさんが出す商品として、地面に赤い印が押されるものを作りたかったんです。グラフィックを考える際に、本当の土俵のような土色にしたほうがいいか、という議論もあったのですが、シートを広げた瞬間に白地に朱色のしるしが地面にパッと押されている光景が作りたいなと思いました。
本当はその部分をもっとコンセプトシートの中で言葉にするべきだったなと反省しています。それと同時に、意図を汲み取って評価してくださったことに、とても感謝しています。

―― 共同作業はどのように進めましたか?
千勝 住んでいる場所に距離があるので、休日に毎週1回、オンライン通話で2時間くらい話していました。提出期限があるので逆算して、いつまでにアイデアを固めようかとか、模型を作ろうかなどをしっかり決めていました。メインとなる土俵のグラフィックデザインという大事な部分が中嶋さんに任せきりになってしまうので、それ以外のリサーチやサンプル集めなどは私ができる限り担当しました。
―― 今回の提案におけるこだわりはどこですか?
千勝 こだわりかどうかは分からないのですが、私が考えるこの作品の売りは「チープさ」だと思っています。ある意味での「安っぽさ」をうまくいかして、広まっていけばよいなと考えていました。
中嶋 手軽さとも言えますね。薄くてちょっとペラペラした感じの、本当に誰でも買えそうなものなのですが、「制作のハードルを下げる」という消極的な動機も実はありつつ、量産しやすいものになったとも思っています。
―― 今回の受賞は今後の活動につながりそうですか?
千勝 まだ今のところ特に新しい予定はないのですが、私たちがつくっているものを評価してもらえたので、今回の受賞をきっかけに、これからも続ける自信になりました。
中嶋 これからもユニット的に、2人でやってみたいと思います。
―― 最後に、来年度に向けて、応募される方へのメッセージをお願いします。
千勝 出来上がった作品は、自分の一つの経験になります。楽しんで取り組むと良いと思います。
中嶋 応募したとき、自信はなかったのですが、作っている時間はすごく楽しくて、自分が「好きだ」と思えるものができた実感がありました。結果とはまた別に、その感覚が残っていることが今は嬉しいです。迷っている方がいたら、楽しみながら向き合えるといいのかな、と思っています。
Profile:KO-MI(千勝 美南・中嶋 琴子)
取材・編集:角尾 舞
撮影:井手勇貴