――喜多さんはデザインを「ハッピー産業」だとおっしゃっていますね。
モノを買うということは「使ってみたい」という“夢”を買うわけですからね。それはインテリアでも印章でも同じで、だからこそつくり手は“気”を込めなければいけないと思います。
今はローコストばかりが重視され、安いモノであふれていますが、世の中がどんどんそっちの方向に進んでいくのは危険なことだと思いますね。ただ安いだけのモノを使っていると、人としてスカスカになってしまう気がするんですよ。人は、モノから教えられる事というのもあるんです。子供だって毎日それなりにいいモノに触れて過ごせば、この椅子は座り心地がいいなとか、これは汚しちゃいけないんだなということがわかり、モノを大切に扱うようになりますよね。人とモノの関係とはそういうものだと思います。
もちろん安くてもいいモノはたくさんありますから、大事なのは価格の高い安いではなく、コンセプトがあるかどうか。僕の場合は、インテリアをつくる時は思いやりとエコロジーもひとつのコンセプトに据えています。成長の早い竹や、伐採されずに放置されたままの杉、群生すると他の植動物の成長を阻害してしまう水草など、サステナブルな自然素材をいかに活用するとか。
――アイデアはどのようなところから着想するのですか?
たとえばこの白い椅子は色々と機能するんです。1998年につくったものなんですが、発想の軸にしたのは、20年後の私たちの生活はどうなっているだろうか、ということ。ワークスタイルが変化して、自宅がオフィスを兼ねているんじゃないか。プライベートの過ごし方も変わり、テレビが劇場のスクリーンのようになって家で映画が見られるようになっているかもしれない。そして高齢化が世界的に進んでいるだろうと考えました。だからこの椅子は、仕事で疲れた時に頭がのせられるように背もたれが伸ばせて、映画鑑賞の時は足も伸ばせてゆったりくつろげる。しかも操作が簡単で軽いので、高齢者でも無理なく使えます。そうやってイノベーションの発想で、ただモノだけを考えるのでなく、人の暮らしそのものを想像するんです。そうすると、どんな機能が必要なのか見えてくる。それもデザインなんですよ。
――SNDCに挑戦しようと思っている人にメッセージをお願いします。
プロダクトコンペは世界各国にたくさんありますが、その中でもSNDCは「しるし」というひとつのテーマをずっと追求していて、そのつど多彩なアイデアが出てくる、非常にユニークな継続に値するコンペだと思います。未来のためにも、ぜひ多くの方に出品していただきたいですね。僕も若い頃、国内外のコンペに出品しましたが、力をつけるいい訓練になりました。人は行動することが大事なんです。生きている限りこれで終わりなんてことはあり得ませんし、みんな明日の夢を持って生きている。その夢につながるようなモノを、ぜひ創造してほしいと思います。それができるのが私達ですから。
執筆: 杉瀬由希 撮影: 池ノ谷侑花