――今回のテーマ“「 」を表すしるし”と聞いて、中村さんはどんな言葉を思い浮かべましたか?
漠然とですが、ひとつ考えたのは、“「私たち」を表すしるし”というのはあるんじゃないかなと。判子というのは、基本的には大体が「私」を表すしるしですよね。そこをもう少し広げて「私たち」と捉えると、自分が属しているコミュニティや仲間、地域、国、あるいは自分が共感している考え方なども含まれると思いますが、そういうものに対してどんなしるしを与えるか。それはちょっと考えてみたいテーマかなと思います。
――いまはみなさん自粛やテレワークで一人になる時間が多いと思いますが、その中で「私たち」は、人とのつながりを再認識するような言葉ですね。
ここ何年か、みんなどんどん「個」に帰っていってると思うんです。SNSが定着して、さらにコロナの影響もあり、一人に立ち返っていくという世の中の流れができたのではないでしょうか。そこを経た上で、じゃあ「私たち」はこれからどう考えて行いけばいいのだろうということは、みんなに共通のテーマとしてあるのではないかと思います。
――この一年で、中村さんにとっての「私たち」やお仕事の仕方は変わりましたか?
家でリモート会議やメールでスタッフと連絡をとりながら仕事をしているのですが、それぞれ個別に生活しているなかで目的や思いを共有していくことは、結構難しいなと感じています。事務所にみんなが集まって仕事をしているときは、「私たち」感というか、いつでもコミュニケーションができる状態だったので特に意識はしていませんでしたが、同じ場に一緒にいるということは大きな意味のあることだったんだなと思いますね。
――実際に会ったり触れたりして何かをするというリアルの機会が減り、オンラインやデジタルの活動が増えたことで、モノに対する見方や関係性は変わってきているのでしょうか?
単純に、実物が持っている情報量の多さにあらためて気づいたというのはあります。たとえば僕は、美大で講義を持っているので、そちらもリモートで行うことが多いんです。撮影した作品画像を見ながら学生たちと意見を言い合ったりしているのでが、たまに学校に集まって実際にその作品を見ると、解像度が高いというか、画面越しで見ているよりはるかにいろいろな情報が入っているんですよ。やっぱり平面の画面で伝えられることは、歴然と現前する実物のそれとは全然違うんだなと。そういう当たり前のことに気づいたりしますね。
――応募を考えているクリエイターの皆さんには、どんな作品を期待しますか?
具体的なソリューションというよりは、こっちを向いて行くといいんじゃないかという方向性を指し示してくれるようなものだと、受け取るこちらとしては刺激になると思います。あとは、モノでもコトでもいいのですが、すごく出来がいいもの。考え抜かれた美しいカタチとか、思わずニコッとしてしまうような、何かそういうエッセンスがあるものがいいですね。やっぱり僕らは、つくるもののクオリティでコミュニケーションしていると思うので、そこはぜひ頑張ってもらいたい。言葉だけではなく、モノでちゃんと語ってくれるような提案を期待しています。
聞き手:田尾圭一郎(美術出版社)
構成:杉瀬由希