二組ある準グランプリ受賞者の一組である堀 聖悟さんと、瓜田理揮さんのペア。二人とも企業でデザイナーとして働きながら、今回の作品に取り組みました。「スタンプの色を変える」という小さなきっかけで、大きな変化を生み出そうとする二人に話を伺いました。
――このたびは、おめでとうございます。受賞の知らせと準グランプリという結果をお聞きになって、いかがでしたか。
堀素直に嬉しかったです。SNDCも初めてで一案しか出せていなかったので、とても驚きました。
瓜田そもそもこういうコンペティションに応募して受賞するという経験がなかったので、受賞の内定をいただいた時点でそわそわしてしまって。今回の提案はささやかすぎるかなと思っていたので、伝わるかの不安もありました。授賞式で順番に賞が発表されていくときは、もう手汗が止まらない感じでした。ドキドキと嬉しさが混ざっていて。
堀本当に緊張しました。
――あのシステムは、ドキドキしますよね。今回、お二人でSNDCへ応募しようと思ったきっかけはなんですか?
堀去年、大学を卒業してから久しぶりに同期だった瓜田さんと再会して、情報共有をするチャットを始めました。その流れでいくつかコンペにも出していて、SNDCも挑戦してみたんです。そのなかで、今回が初めての受賞でした。大学時代、卒業制作展の運営委員として関わっていたことを思い出し、久しぶりに一緒に何かやりたいねって意気投合したんです。
――お二人とも、現在はデザイナーとして働かれているのでしょうか?
堀自分は、広告の会社でグラフィックデザインをやっています。
瓜田はい。主にブランドデザインの領域でデザイナーをしています。
――今回の役割分担はありましたか?
堀今回のケースで言うと、自分がアイデアの種みたいなものをいくつか共有して、良いと感じるアイデアを瓜田さんと決めた上で、それを膨らませて一緒に作った流れです。瓜田さんは構造的に言葉にするのが上手で。コンセプトや、どうやって審査員の方に伝えればいいかを一緒に壁打ちしながら作っていきました。最終審査のモック制作では、各自分担して作っています。
――テーマの「こころを感じるしるし」はどう解釈されましたか?
堀広いテーマなので、どこにフォーカスしたらいいのか悩ましい部分がありました。逆説的なのですが、これまでのスタンプはデコレーション的というか、「こころの表現に強いもの」という印象があって。でも自分はあんまり、例えば絵文字やスタンプみたいなもので表現するのが得意じゃないというか、控えたい気持ちがありました。そこから、もしかしたら今までのスタンプって少し派手だったのかもと気づきまして、もっと静かに飾れるものを作りたいと考えたのが今回の経緯です。
瓜田堀君が共有してくれた「薄い色を押してみたらどうだろう」というアイデアを見たときに、今までこころを伝えてこられなかった人や環境があるかも?とハッとしたんです。「こころを感じる受け取り手」側の目線ではなく、「こころを伝えられていない送り手」側に目線に少し解釈をずらした部分があると思います。
――「K=5%」というタイトルもすごく分かりやすいですよね。特に審査員がデザイナーだから絶対伝わるというのが、うまい仕掛けだなと思いました。
堀ありがとうございます。そうですね。たぶん商品名としてはあまり優れてないとは思います。印刷用語は、一般的には伝わらない言葉なので。「色が薄いハンコ」というのは、多分ぱっと見ではわかりづらい表現だと思ったので、タイトルの部分で機能的に伝えたいと思いました。そこで「K=5%」という、タイトルで「色のことを言ってるな」と気づいてもらい、写真を見て「あ、こういうことか」という流れが作れないかなと名付けました。
瓜田過去の作品で、数式をそのままタイトルにしている作品を堀君が見つけて、こういう方向性もあるねと話していました。
堀過去の受賞作を一通り見て、やっぱり印鑑やハンコの関連が多いなという印象を受けたので、わりと最初からそこに絞っていました。でももっとハンコ以外にも広げたいという話をシヤチハタの舟橋社長から授賞式で聞いて、もっと広い解釈で発想してみたかったなと、今では思います。
――プレゼンシートも非常にわかりやすかったのですが、どんな意識で作りましたか?
堀タイトル、サブタイトル、コンセプト、そして写真が数点と要素自体がはっきりしていたので、ぱっと見たときに審査員の方が読みやすいように意識してレイアウトしました。
――では今回の提案を制作する上で、大事にしたことはどこでしょうか。
堀一番は「新しく見える」という部分です。ハンコ自体の提案として、色を薄くするというのがコアではあるのですが、それ以上にシーンやコンセプトなどの文脈的な部分が重要なので。ただ色を薄く変えるという提案だけでは弱いと感じたので、どうしたら使いたくなるか、欲しくなるか、を考えて伝えようと思いました。そこを二人で詰めて、言葉やコンセプトでわかりやすくできたのかなと思います。
瓜田自分は一貫して、「自分たちが面白い」と思ったものをどうやって分かってもらうかをずっと押し引きしていたなと思います。コアの部分は面白いと信じた上で、この言い方だったら伝わるか?なぜこの写真なのか?を何度も考えました。そこが一番こだわって、大変だった部分です。
――商品化された場合、誰にアピールしたいですか?
瓜田今回の提案は、採用通知のような資料の背景に押したら、ささやかに気持ちが伝えられるよね、というコンセプトでした。厳かに見える文章にも送り手がいるんだよ、と。採用通知書を自分がもらったとき、なんだか無機質だなという課題感を持ちました。もっと受け入れられている感覚にならないかな?と、自分の会社内でもよく言っているんです。こういうプロダクトを作ることで、人事の方の笑顔とか気持ちとかをスタンプを使って伝えたいですよねと、早く商品化して自分で売り込みに行きたいなと思っています。
――小学校のお便りには桜の花のようなものがよく入っていた気がしますが、大人になるとそういうのなくなりますよね。
瓜田あ、そうですね。すごく楽しかった気がします。「大変よくできました」とかいっぱい欲しかったですよね。今回の提案は大人も押し放題な新しい機能のスタンプなので、別のゾーンを開拓できるのかなという視座もありました。「大人の新しいスタンプ」みたいな。
――ちなみに「5%」にした理由はありますか?
瓜田デザイナーがよく言う「図と地」という概念があります。今回の背景を装飾するスタンプは「地」に属します。これまでの「図」として主張するスタンプは、ちょっと強いなって思っていて、それに対して「地」を装飾するためのスタンプという考え方でした。厳かな文章が書いてあるところに、花のスタンプがドン、と押されていると元気すぎちゃって、文章の伝わり方も違うものになりそうですよね。文章を伝えることを最優先にして黒の濃度をコントロールしたら、今回くらいの薄さに行き着きました。
堀ある程度のスタンプの輪郭が分からないと、これ汚れかな?みたいに見えてしまうので、バランスを検証して決めました。スタンプを5回押した後ぐらいの濃さです。
瓜田その話を知らないシヤチハタの社員さんから「5回目くらいの濃さですよね」って見抜かれていました。
――お2人は、来年もSNDCでグランプリを狙いに行きますか?それとも他のコンペに挑戦しますか?
堀他のコンペにも出したいんですが、SNDCでハンコ以外の領域を自分たちで切り開きたい気持ちがあります。過去の作品の影響を受けてハンコに絞ったところがあるので、願望として。
「しるし」という範囲をもっと開拓して、ハンコ以外でグランプリを取ったら可能性が広がると思うので、そういう作品を作りたいと思っています。あまり大きなことは言えませんが(笑)
取材・執筆:角尾 舞