インキのこと、どのぐらい知っていますか?シヤチハタは、かなり多くの材料を自社で開発しています。そのなかでもユーザーにとって馴染み深いのが、ペンや浸透印に使われるインキです。今回は、これらの開発をする、シヤチハタ研究開発部の旭野欣也さんと小林千紗さんに、インキ開発で重要なことや、染料と顔料の違いなどを教えてもらいました。
「ペンのインキというのは粘り気がすごく大事なんです。コテコテすぎると出てきませんし、サラサラすぎると漏れてしまいます」。
液体には粘り気を示す単位があり、1という基準はおなじみの「水」。その液体が水に比べて何倍の粘度を持っているか、で数値が表されます。ペンなどのインキは3くらいからの粘度が多く、高くても40くらい。スタンプ台や朱肉はそれよりもずっと高く、数百倍、数千倍の粘度だそうです。具体的な粘度の差はペンの構造によって変わり、たとえば万年筆や中綿から染み出して出てくるような構造のものは1桁台で、良く振ってから使うバルブ式のペンは2桁くらい、のような違いがあります。練ってつくる朱肉などはとても粘度が高いということですね。この粘度を大切にしながら、ターゲットとなる色に向かって、インキは開発されます。
おおまかに言えば、顔料インキは「細かい粒子が液体に分散しているインキ」、対して染料インキは「色の成分が液体に溶け切っているインキ」です。顔料インキは色の粒をうまいこと散らさないといけないので、沈んで分離させないために、染料インキよりもより粘度に気を遣います。
ではどうして使い分けるのでしょうか?
「顔料インキは染料インキに比べて耐光性があり、光に対して退色しづらく丈夫です。また隠蔽性もあり、上から重ねて書くと、下にあるものを見えなくできます。一方染料インキは光がたくさん当たると、色が薄く褪せてしまう傾向があります。反面、色が鮮やかで調色をしやすいので、たくさんの色を作ることができます」
と小林さん。たとえば、50色のカラーペンセットのようなものは染料インキの方が作りやすいですが、黒地にも書けるようなペン(シヤチハタ製品でいえば「ポップメイト」)は顔料インキでできています。いわゆる修正ペンも顔料インキです(白い染料は存在しないので)。ちなみに、墨の粉を水に混ぜてつくってきた墨汁は顔料、草花から色を抽出するような草木染めの材料は染料で、昔から使い分けられています。
かつてはスタンプ台も水性染料が多く使われていましたが、現在では顔料に切り替わるなど、時代によっても違いがあります。
一言で染料インキと言っても、よく使われるのは酸性染料と塩基性染料の二種類に分けられます。それぞれのインキは混ぜられないため、用途によって使い分けます。酸性染料の方が色数が多いそうですが、より発色に優れるのは塩基性染料とのことです。
「長期間保管したときの製品状態を見たいときは、試験機で60度くらいの高温にかけています。高温にすると、時間を短縮して促進することができるとわかっているのです」
と小林さんがその秘密を教えてくれました。試験機では開発中のインキをいろいろな状況下に置いて、1週間、1ヶ月ごとなど状態をチェックします。
他にもシヤチハタ社内には「ウェザーマシン」と呼ばれる、雨風などの屋外環境を再現できる機械もあり、さまざまな環境下で使用されるインキの状態を確かめながら開発が進められています。どんなに素敵な色でも、すぐ薄くなってしまったり、書けなくなってしまったりでは商品としては成り立たないので、このような努力がなされているのです。
普段は見えないインキの話。まだまだ奥が深いですが、この続きは具体的な製品とともにお伝えします。
取材・執筆:角尾舞
「シヤチハタの捺しごと」
Vol.03 建設現場のシヤチハタ
https://sndc.design/news/2134/
Vol.02 シヤチハタが釣り道具? イレグイマーカー開発秘話
https://sndc.design/news/802/
Vol.01 稲沢工場へようこそ
https://sndc.design/news/765/
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インキのポイント1:粘り気
そもそも「インキを作る」ってどのようなお仕事なのでしょうか?このざっくりとした質問を投げかけたところ、 「ペンや浸透印の構造に合わせて、用途に合った性能を持つ、希望の色のインキの材料配合を設計する仕事です。」 と旭野さんがわかりやすく教えてくれました。そしてここでポイントとなるのが「粘り気」。「ペンのインキというのは粘り気がすごく大事なんです。コテコテすぎると出てきませんし、サラサラすぎると漏れてしまいます」。
液体には粘り気を示す単位があり、1という基準はおなじみの「水」。その液体が水に比べて何倍の粘度を持っているか、で数値が表されます。ペンなどのインキは3くらいからの粘度が多く、高くても40くらい。スタンプ台や朱肉はそれよりもずっと高く、数百倍、数千倍の粘度だそうです。具体的な粘度の差はペンの構造によって変わり、たとえば万年筆や中綿から染み出して出てくるような構造のものは1桁台で、良く振ってから使うバルブ式のペンは2桁くらい、のような違いがあります。練ってつくる朱肉などはとても粘度が高いということですね。この粘度を大切にしながら、ターゲットとなる色に向かって、インキは開発されます。
インキのポイント2:染料か顔料か
粘度の話はインキが「顔料」か「染料」かでも重要になってきます。ペンによく書いてある2種類ですが、そもそもこの2つの違いはどこにあるのでしょうか?おおまかに言えば、顔料インキは「細かい粒子が液体に分散しているインキ」、対して染料インキは「色の成分が液体に溶け切っているインキ」です。顔料インキは色の粒をうまいこと散らさないといけないので、沈んで分離させないために、染料インキよりもより粘度に気を遣います。
ではどうして使い分けるのでしょうか?
「顔料インキは染料インキに比べて耐光性があり、光に対して退色しづらく丈夫です。また隠蔽性もあり、上から重ねて書くと、下にあるものを見えなくできます。一方染料インキは光がたくさん当たると、色が薄く褪せてしまう傾向があります。反面、色が鮮やかで調色をしやすいので、たくさんの色を作ることができます」
と小林さん。たとえば、50色のカラーペンセットのようなものは染料インキの方が作りやすいですが、黒地にも書けるようなペン(シヤチハタ製品でいえば「ポップメイト」)は顔料インキでできています。いわゆる修正ペンも顔料インキです(白い染料は存在しないので)。ちなみに、墨の粉を水に混ぜてつくってきた墨汁は顔料、草花から色を抽出するような草木染めの材料は染料で、昔から使い分けられています。
かつてはスタンプ台も水性染料が多く使われていましたが、現在では顔料に切り替わるなど、時代によっても違いがあります。
一言で染料インキと言っても、よく使われるのは酸性染料と塩基性染料の二種類に分けられます。それぞれのインキは混ぜられないため、用途によって使い分けます。酸性染料の方が色数が多いそうですが、より発色に優れるのは塩基性染料とのことです。
インキのポイント3:耐久性チェック
どんなにきれいな色のインキができても、完璧な粘度で用途に合っていたとしても、多くの人に使われる製品を作るうえで重要なのが、その耐久性です。数年経っても色が消えてしまったり、書けなくなってしまったりしないか、という実験をしています。しかし、実際に2年間使い続けてみて……では、商品開発として時間がかかりすぎてしまいます。では、どうしているのでしょうか?「長期間保管したときの製品状態を見たいときは、試験機で60度くらいの高温にかけています。高温にすると、時間を短縮して促進することができるとわかっているのです」
と小林さんがその秘密を教えてくれました。試験機では開発中のインキをいろいろな状況下に置いて、1週間、1ヶ月ごとなど状態をチェックします。
他にもシヤチハタ社内には「ウェザーマシン」と呼ばれる、雨風などの屋外環境を再現できる機械もあり、さまざまな環境下で使用されるインキの状態を確かめながら開発が進められています。どんなに素敵な色でも、すぐ薄くなってしまったり、書けなくなってしまったりでは商品としては成り立たないので、このような努力がなされているのです。
普段は見えないインキの話。まだまだ奥が深いですが、この続きは具体的な製品とともにお伝えします。
取材・執筆:角尾舞
「シヤチハタの捺しごと」
Vol.03 建設現場のシヤチハタ
https://sndc.design/news/2134/
Vol.02 シヤチハタが釣り道具? イレグイマーカー開発秘話
https://sndc.design/news/802/
Vol.01 稲沢工場へようこそ
https://sndc.design/news/765/
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