インキのこと、どのぐらい知っていますか?前回の記事では、シヤチハタの研究開発部の二人から、インキの基礎知識を学びました。VOL.05は、どんな商品にどんな技術が使われているかを深掘りします。
実際の商品開発においては用途とコンセプトに対してどのようなインキや技術を提供するかが重要です。今回はシヤチハタの4つの商品について具体的にその技術を紐解きます。
第12回シヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティションでグランプリを受賞した歌代 悟さんによる「わたしのいろ」は、一つのインキパッドのなかに複数の色を織り交ぜた朱肉です。でもこれ、なぜ混ざってしまわないのか不思議ではないですか?
ここで用いられているのは「チキソトロピー」という現象です。チキソトロピーとは、ざっくり説明するならば、普段は硬いものが力を加えたときだけ柔らかくなるという化学現象。
わたしのいろのインキは普段静置している状態ではとても粘り気が強いのでインキパッドの上で混ざってしまうことはありませんが、スタンプでぎゅっと押した瞬間だけさらっとした液状になり、色がつけられるという仕組みです。
もう一つ課題だったのは、耐久性。何年経っても品質が安定しているかどうかを確認するために、前回の記事でも説明した促進試験で評価してから販売したそうです。ちなみにこの商品は最初、個数限定で販売しましたが、大人気となり、第三弾まで販売されました。
シヤチハタオンラインショップ 「わたしのいろ」
https://www.shachihata.jp/products/detail.php?product_id=7408
さまざまなインキ色が楽しめる「いろもよう」の「光彩」というシリーズは、きらりと光るラメが特徴。しかし、そもそもラメってなにかご存知ですか?
光彩シリーズで用いられたラメは、小さな小さなアルミ片です。鱗片状なので光が当たったときに反射して光ります。このアルミ片のサイズがどのくらいの粒径が良いのかを検証する実験に苦労したと言います。小さすぎると光らないし、大きすぎるとうまくインキパッドの隙間を通らないなど、実験を重ねて最適なサイズを見つけ、ほんのり上品に光るラメ入りのインキパッドとなったそうです。
これまでもラメが入っているインキパッドはありましたが、おそらく多くの方が目にしたことがあるのはウレタンスポンジのタイプです。ぎゅっと押すとインキがジュワッと出てくるものですが、この仕様だとインキが過剰に出ることがありスタンプのすき間に入り込んでしまうという問題などがありました。
今回の光彩で実現したのは、フェルトに綿布を乗せた専用パッドで、扱いやすさから開発が望まれていたとのことです。
シヤチハタオンラインショップ 「いろもよう 光彩」
https://www.shachihata.jp/products/detail.php?product_id=9064
「おててポン」は新型コロナウイルス感染症のパンデミック下で話題になったプロダクトです。子供に手洗いの習慣をつけさせる目的で生まれました。バイキンの絵柄がついたスタンプで、手に捺して30秒間石鹸で洗うときれいに落とすことができます。安全性に配慮してインキには食用色素を使用しています。
そもそもスタンプはしるしを残すために開発することがほとんどですが、今回の場合はすぐに消えることが求められました。厚生労働省が推薦する30秒の手洗いで適切に消えるようにするために、適切な量の着色剤を使用し、さまざまなメーカーが発売しているハンドソープで実験を繰り返したと言います。A社の石鹸では落ちるけどB社では落ちにくい、なども見つかり、ほとんどのメーカーの商品で落ちる着色剤が最終的に選ばれました。
シヤチハタオンラインショップ 「おててポン」
https://www.shachihata.jp/products/detail.php?product_id=4363
最後は「ジカケル」という、無色透明のペンです。これは、マスキングテープの上に水性ペンで文字を書くためのもの。
マスキングテープは身近な文具の一つですが、実は水性ペンでは弾いてしまい、上から文字を書くことはできません。これまでは油性ペンを使うしかありませんでしたが、色数が多くある水性ペンも使いたいという声が多くあったと言います。そこで、テープの表面は剥離性がないといけないので水性インキは弾いてしまうことから、それをコーティングするペンをシヤチハタの企画者が思いつきました。完成した技術をもとに文具女子博で発表したところ大人気となり、現在商品化が待たれています。
普段なにげなく使っているペンやスタンプですが、実はさまざまな研究や実験を経てプロダクト化されています。使う人も、あるいは企画やデザインをする人も、その背景にある技術を知ると新しいアイデアが浮かぶかもしれません。
取材・執筆:角尾舞
「シヤチハタの捺しごと」
Vol.04 インキの秘密 その1
https://sndc.design/news/2648/
Vol.03 建設現場のシヤチハタ
https://sndc.design/news/2134/
Vol.02 シヤチハタが釣り道具? イレグイマーカー開発秘話
https://sndc.design/news/802/
Vol.01 稲沢工場へようこそ
https://sndc.design/news/765/
ニュース一覧に戻る
実際の商品開発においては用途とコンセプトに対してどのようなインキや技術を提供するかが重要です。今回はシヤチハタの4つの商品について具体的にその技術を紐解きます。
わたしのいろ
第12回シヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティションでグランプリを受賞した歌代 悟さんによる「わたしのいろ」は、一つのインキパッドのなかに複数の色を織り交ぜた朱肉です。でもこれ、なぜ混ざってしまわないのか不思議ではないですか?
ここで用いられているのは「チキソトロピー」という現象です。チキソトロピーとは、ざっくり説明するならば、普段は硬いものが力を加えたときだけ柔らかくなるという化学現象。
わたしのいろのインキは普段静置している状態ではとても粘り気が強いのでインキパッドの上で混ざってしまうことはありませんが、スタンプでぎゅっと押した瞬間だけさらっとした液状になり、色がつけられるという仕組みです。
もう一つ課題だったのは、耐久性。何年経っても品質が安定しているかどうかを確認するために、前回の記事でも説明した促進試験で評価してから販売したそうです。ちなみにこの商品は最初、個数限定で販売しましたが、大人気となり、第三弾まで販売されました。
シヤチハタオンラインショップ 「わたしのいろ」
https://www.shachihata.jp/products/detail.php?product_id=7408
いろもよう 光彩
さまざまなインキ色が楽しめる「いろもよう」の「光彩」というシリーズは、きらりと光るラメが特徴。しかし、そもそもラメってなにかご存知ですか?
光彩シリーズで用いられたラメは、小さな小さなアルミ片です。鱗片状なので光が当たったときに反射して光ります。このアルミ片のサイズがどのくらいの粒径が良いのかを検証する実験に苦労したと言います。小さすぎると光らないし、大きすぎるとうまくインキパッドの隙間を通らないなど、実験を重ねて最適なサイズを見つけ、ほんのり上品に光るラメ入りのインキパッドとなったそうです。
これまでもラメが入っているインキパッドはありましたが、おそらく多くの方が目にしたことがあるのはウレタンスポンジのタイプです。ぎゅっと押すとインキがジュワッと出てくるものですが、この仕様だとインキが過剰に出ることがありスタンプのすき間に入り込んでしまうという問題などがありました。
今回の光彩で実現したのは、フェルトに綿布を乗せた専用パッドで、扱いやすさから開発が望まれていたとのことです。
シヤチハタオンラインショップ 「いろもよう 光彩」
https://www.shachihata.jp/products/detail.php?product_id=9064
おててポン
「おててポン」は新型コロナウイルス感染症のパンデミック下で話題になったプロダクトです。子供に手洗いの習慣をつけさせる目的で生まれました。バイキンの絵柄がついたスタンプで、手に捺して30秒間石鹸で洗うときれいに落とすことができます。安全性に配慮してインキには食用色素を使用しています。
そもそもスタンプはしるしを残すために開発することがほとんどですが、今回の場合はすぐに消えることが求められました。厚生労働省が推薦する30秒の手洗いで適切に消えるようにするために、適切な量の着色剤を使用し、さまざまなメーカーが発売しているハンドソープで実験を繰り返したと言います。A社の石鹸では落ちるけどB社では落ちにくい、なども見つかり、ほとんどのメーカーの商品で落ちる着色剤が最終的に選ばれました。
シヤチハタオンラインショップ 「おててポン」
https://www.shachihata.jp/products/detail.php?product_id=4363
マスキングテープ用 下地ペン ジカケル
※現在はテスト販売終了。最後は「ジカケル」という、無色透明のペンです。これは、マスキングテープの上に水性ペンで文字を書くためのもの。
マスキングテープは身近な文具の一つですが、実は水性ペンでは弾いてしまい、上から文字を書くことはできません。これまでは油性ペンを使うしかありませんでしたが、色数が多くある水性ペンも使いたいという声が多くあったと言います。そこで、テープの表面は剥離性がないといけないので水性インキは弾いてしまうことから、それをコーティングするペンをシヤチハタの企画者が思いつきました。完成した技術をもとに文具女子博で発表したところ大人気となり、現在商品化が待たれています。
普段なにげなく使っているペンやスタンプですが、実はさまざまな研究や実験を経てプロダクト化されています。使う人も、あるいは企画やデザインをする人も、その背景にある技術を知ると新しいアイデアが浮かぶかもしれません。
取材・執筆:角尾舞
「シヤチハタの捺しごと」
Vol.04 インキの秘密 その1
https://sndc.design/news/2648/
Vol.03 建設現場のシヤチハタ
https://sndc.design/news/2134/
Vol.02 シヤチハタが釣り道具? イレグイマーカー開発秘話
https://sndc.design/news/802/
Vol.01 稲沢工場へようこそ
https://sndc.design/news/765/
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