シヤチハタというと、多くの人はハンコやスタンプを思い出してくれると思います。たしかに主力製品は文具のカテゴリーですが、実はそれ以外にも商品開発をしています。
今年4月に釣具メーカーのジャッカルから発売した「アートライン イレグイマーカー」は、釣り好き社員の熱い企画で生まれた商品です。この異色の商品の開発の経緯を、研究開発部の旭野欣也と、商品開発部の柴田蓮也に聞きました。今回は、捺さないお仕事です。
イレグイマーカーとルアー
新商品は、柴田のいる商品開発部や、旭野の研究開発部などの切磋琢磨で生まれますが、今回のイレグイマーカーは二人の熱量とシヤチハタの技術が合致して誕生しました。「ケイムラクリアがほしいと言われても、自分が釣りを知らなかったら理解できませんでしたからね」と旭野は言います。そして同時に「全然知らない釣りの話だけれど聞いてくれた上司や先輩がいて、やってみるか、と言ってくれました。それがなかったら商品化はできませんでした」と柴田が言うように、これまでと全く違うジャンルながら後押しする社内の雰囲気も必須でした。
イレグイマーカーは今年4月の発売と同時に1週間で在庫は売り切れたと言います。感染症の影響もあり生産に遅れが出ましたが、現在も順調に販売数を伸ばしています。そして今回の異色の新商品により、社内でも全然違うジャンルの企画も増え始めたそうです。「これが作れるなら、きっとあれもできる!というこれまでと違う発想が商品開発部にも出てきました。自分のような若手が一人で企画したのも珍しかったので、新しい空気はできています」と柴田は話します。
イレグイマーカーによって、シヤチハタの考える「しるしの価値」が広がったと社内でも話題です。新しい市場を開き、これまでにない「しるし」のあり方を、捉え直せる商品となりました。
(注)所属は取材時のものです
取材・執筆:角尾舞
「シヤチハタの捺しごと」
Vol.03 建設現場のシヤチハタ
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魚が釣れるインキとは?
シヤチハタには研究開発部という、化学の専門知識を持ち、インキなどの開発をしているチームがあります。例えば、ネーム印には紙に押してすぐ乾く特性のインキが使われており、紙ではない布やプラスチック製の素材に押せるインキもあります。子どもの手形を取るスタンプのために、肌に優しく色鮮やかで、時間が経っても褪せないインキの開発もここの部署の仕事です。もちろん、社員がアイデアを出して全く新しいインキの開発をすることもあります。 この部署のマネージャーである旭野欣也は、小学生のころから川釣りを始めた社員。今回のイレグイマーカーは旭野と同じく釣り好き社員である、商品開発部の柴田蓮也が話を持ちかけたのがきっかけで生まれました。 研究開発部の旭野欣也。釣り歴は47年です。 イレグイマーカーは、魚釣りに使われるルアーに自分で着色ができるペンです。特徴的なのは、耐水性があり「ケイムラ加工」が自分で簡単にできること。ケイムラは釣り業界の専門用語で「蛍光ムラサキ」の略称です。ルアー等の売り文句に使われており、紫外線が当たると青白く光るので、暗い水のなかにいる魚にもアピールできて、食いつきがよくなると言われています。そのままでは人間の目には見えませんが、ブラックライトを当てると光ります。 釣り人の多くは、天候や魚種に合わせて色が異なるルアーを使い分けています。たくさんのルアーを携行している人が多いものの、ハマる色がない場合はその場で塗る人もいるそうです。 「今までもカラフルな油性ペンでルアーに塗っている人はいましたが、釣り用の開発塗料ではないので、あくまで色を変えるだけでした。そこで市場にないならシヤチハタで作ってしまえと考えたのが、ケイムラ加工ができるマーカーです。釣具業界の独特な文化ですが、釣りに適した蛍光色のインキを探し、それをペンという形状にすることで誰でも簡単にルアーに塗れるようにしました」と、商品を企画した柴田は話します。 柴田は大学生の頃から釣りを始めました。しかし学生にはたくさんのルアーを買い集める資金力もなく「今日はあの色があったらな」と思う日も多くあったそうです。そんな経験もあり、状況に応じてルアーをカスタマイズできる商品の発想を持ちました。旭野とは部署も年代も違うものの釣り仲間。海釣りなどにも同行しています。 商品開発部の柴田蓮也。イレグイマーカーで着色したルアーで、60cmの鯛を釣りました。釣り好きによる釣り好きのためのマーカー
社内でも新商品の企画を出す機会はあるものの、主には文具などシヤチハタと親和性の高い市場向けのものがほとんどでした。そのなかで柴田は「釣具を出したい!」と熱い企画書を書き、上司や先輩を説得していきました。社内で開発しているインキの内容もある程度知っていたので、社内の部材を組み合わせればできることはわかっており、プロトタイプも作っていたそうです。ちなみに一番の開発理由は「自分が使いたかった」からだそうです。 イレグイマーカーによるビフォア・アフター イレグイマーカーは、随所に釣り好きのこだわりがつまっています。ペン先はブラッシュ状になっており、様々な曲面に対応ができ、ハードルアー、ソフトルアーのどちらにでも使えます。初心者にも簡単に塗れるように工夫しました。 また全8色の色選びも釣り人の目線です。一番の売れ筋はケイムラクリア(無着色で蛍光加工だけができるもの)ですが、多くの場面で使われる配色に対応できるようにしました。 「赤×金でアカキン、緑×金でミドキン、あるいは銀の背中に黒い点々がお腹にあるイワシなど、ルアーには定番色があります。それに対応できるようにしました。例えば隣の人がアカキンで釣れているとき、イレグイマーカーがあればその場で変えられます。使っていてルアーの塗料に傷が入って取れてしまったとき、補修に使う人もいます」と旭野は話します。そして最後に大事なのは、ルアーへの愛着がわくこと。 「たくさんルアーを持っていても、釣ったことのあるのはほんとに一部。さらに自分でカスタマイズして釣れたものは特別になります。自分の道具がもっと大事になると思います」(旭野)。ルアーを直しながら使えること、また道具に愛着を持てることで、環境問題にもほんの少し関われるかもしれません。売られる場所まで想像する
イレグイマーカーは、釣具メーカーのジャッカルから発売されました。「日本には釣具メーカーがたくさんあり、世界的大手もあります。そのような大きな会社とコラボレーションしたら、という意見もありましたが、イレグイマーカーはニッチなお客さんに届けたい商品なので、一つ一つの商品の魅力を伝えるのがうまいジャッカルさんに企画を持ち込みました。釣具屋には毎週行っていますが、ジャッカルさんの製品はウェブや店頭の販促物を見ていても伝え方がうまいんです。イレグイマーカーは置いてあるだけでは魅力が伝わらないので、アピールの長けているメーカーがよいと思ったんです。シヤチハタの既存の販路ではできないことでした」と、柴田はジャッカルに持ちかけた理由を語ります。実際に販売が決まると、YouTube向けのプロモーション映像や、釣具メーカー視点でのテストとレビューなど、ジャッカルはとても協力的に製品の魅力を伝えてくれました。 商品開発部の柴田蓮也新商品は、柴田のいる商品開発部や、旭野の研究開発部などの切磋琢磨で生まれますが、今回のイレグイマーカーは二人の熱量とシヤチハタの技術が合致して誕生しました。「ケイムラクリアがほしいと言われても、自分が釣りを知らなかったら理解できませんでしたからね」と旭野は言います。そして同時に「全然知らない釣りの話だけれど聞いてくれた上司や先輩がいて、やってみるか、と言ってくれました。それがなかったら商品化はできませんでした」と柴田が言うように、これまでと全く違うジャンルながら後押しする社内の雰囲気も必須でした。
イレグイマーカーは今年4月の発売と同時に1週間で在庫は売り切れたと言います。感染症の影響もあり生産に遅れが出ましたが、現在も順調に販売数を伸ばしています。そして今回の異色の新商品により、社内でも全然違うジャンルの企画も増え始めたそうです。「これが作れるなら、きっとあれもできる!というこれまでと違う発想が商品開発部にも出てきました。自分のような若手が一人で企画したのも珍しかったので、新しい空気はできています」と柴田は話します。
イレグイマーカーによって、シヤチハタの考える「しるしの価値」が広がったと社内でも話題です。新しい市場を開き、これまでにない「しるし」のあり方を、捉え直せる商品となりました。
(注)所属は取材時のものです
取材・執筆:角尾舞
「シヤチハタの捺しごと」
Vol.03 建設現場のシヤチハタ
https://sndc.design/news/2134/
Vol.01 稲沢工場へようこそ
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