――今回、ゲスト審査員として参加される大西麻貴さんご自身や、彼女の作品の印象について伺えますか。

まるで建物自体がフリーハンドで描かれたような印象があり、美しいです。あまりそういう人を見たことがないですね。手で始めているようにみえるアイデアで、すごく人間味を感じますが、なおかつ洗練されています。プロのデザイナーの視点から見て、形が上手ですね。面白い審査になるんじゃないでしょうか。

――大西麻貴さんについて、ご自身や彼女の作品の印象を教えていただいてもよろしいでしょうか。

大西さんは、インクルーシブな感覚のある建築を作られている方だと思います。世代的には「私たち」を主語に据えている感じがしますよね。これまでの建築家はものすごく「私」が主語だったと思うんです。「私」はこういう考え方で、「私」はこういう建築を作る、というような非常に際立った「私性」の強さを持っていた。しかし主語を「私たち」にしていかないと、いろいろなものが包含できないし、社会全体の問題も解決できない。今直面しているのは「私の問題」ではなくて「私たちの問題」ですよね。海洋汚染も戦争も、社会全体の思想を「We」という主語に変えていかないと難しい。若い世代はこの辺りが敏感で、主語を私たちに変えていっている。そんな世代を代表する建築家の肌触りを感じます。

――今回、建築家の大西麻貴さんがゲスト審査員として参加されます。どのような変化がありそうでしょうか?

大西さんのことはよく存じ上げているわけではないですが、昔の大文字の建築じゃない、新しい建築のあり方を模索している人というイメージが漠然とあります。建築的なことも、プロダクト的なことも、仕組み的なことも、シームレスに捉える方という印象を持っています。
このコンペは、小さなプロダクトのイメージがありますが、独特の角度から何か言っていただけると面白いんじゃないかな。大西さんのような大きいスケールから小さいスケールまで、いろんなものを同じような考え方で作っている方が入ってくれるから、コンペにおける暗黙のスケール感の前提みたいなものも、もう一回捉え直してもいいのかなと。なんか、テーブルの上に乗るものが多いですよね。椅子ぐらいのスケールですらあまり出てこない。

――今回、大西麻貴さんがゲスト審査員として参加されます。大西さんの作品の印象を教えてください。

大西さんのプランで最も印象に残っているのは「SDレビュー2007」の展示会場で拝見した「千ヶ滝の別荘」の模型です。大西さんが百田有希さんと共同設計されたもので、会場の中で独特の存在感を放っていました。森の中でふと出会ってしまった山の主のような存在は、人だけでなく、周辺の生き物たちも安心して集まってきそうで。とんがり屋根だけが浮いたような建築は、都心にあったら奇抜ですが、森にあると擬態して消えてしまう。自然に近い状態を建築で探られているのかなと面白く感じました。