第11回シヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティションにおいて「AIR SIGN」で準グランプリを受賞した青柳祥生さんに、「空で書いた」文字を三次元のデータとして記録に残すアイデアの源や制作プロセスについて話をうかがった。   青柳祥生   ――コンペに応募しようと思った理由と、「しるしの価値」というテーマに対して感じたことを教えてください。   あるサイトでこのコンペを知り、10年ぶりの再開と銘打っていたのが目を引いて応募してみようと思いました。10年間休止して、世の中の認証システムがガラッと変わった中での『しるしの価値』というテーマは、すごく時代に合っていると感じました。審査員の中に中村勇吾さんのお名前があったので、デジタル周辺のものも取り入れられるような環境に変わってきているんだなと思い、その点も意識して考えました。   ――「AIR SIGN」は、判子とは別の着眼点からアイデンティティを表す仕組みを提案した見事な作品ですね。着想はどこから得たのですか?   以前から電子サインデバイスで画面にサインを書くたびに、ラグがひどいなと思っていたんです。これじゃ誰が書いても同じになるんじゃないかなと(笑)。もうひとつ、祖母が物忘れがひどく、思い出そうとしながらよく空に手で字を書くんです。その軌道が毎回同じような気がして、そういう個人のクセみたいなものがアイデアに生かせるんじゃないかとずっと考えていました。そんな時に仕事でモーションキャプチャの現場を見る機会があり、3Dの動きにヒントを得てこれらの経験がうまく結び付いた感じです。日本にはもともと“空で~する”という表現があるので、“空で書く”というキーワードもしっくりくるかなと思いました。   青柳祥生   ――人のクセがアイデンティティになり得るということですね。日頃からよく人を観察していないと思いつかない発想です。   大学時代、プロダクトデザインを専攻していたんですが、講義で共感や観察というテーマで課題があったので、その頃から人を観察する習慣がついたのだと思います。また、深澤直人さんのワークショップ『without thought』の展示会にも強烈なインパクトを受け、自分でも何かそういうデザインのポイントを見つけたいという思いがありました。今はプロダクトデザイン事務所でアシスタントしているんですが、プロダクトの中でも人の生活に密着した家電や家具を手掛けているので、普段から周りの人の行動を見て気になったことがあるとカメラやメモに記録し、アイデアをストックしています。そうしておくと、何かの時にこれとつながりそうだなとか、いろいろ役に立つんです。頭の中だけで考えるより、実際に人が何気なくしている行動やクセからヒントを得たもののほうが、みんなの共感を得られるのではないかと思うので、そこは大切にしています。   ――「AIR SIGN」をデザインするにあたり、苦労したことやこだわったことはありますか?   スケッチからモックをつくって大体のサイズ感を決め、そこからCGに落とし込むという工程を繰り返していくんですが、重視したのは持った時の安定感、細い首とボディをつなぐラインの美しさ。一次審査はプレゼンシートだけの提案だったので、データも特に検証していなかったんです。でもその通りつくってみたら持ちづらかったので、二次審査に向けて試作を重ねました。持ち手が細すぎると握った時に手のひらの中で回ってしまって安定しないので、フィットしやすいようちょっと太くし、首の曲線もわずかな角度や太さで見た目の印象が大きく変わってしまうので微妙に調整しました。   二次審査にあたり制作されたモック   ――次回応募してみようと思っている人へ、メッセージをお願いします。   10年前はまだ高校生だったので、僕も今回が初めての応募だったんですが、まず出すことに意味があるなと思います。これから先のデザイン人生の中で自分の方向性や立ち位置がわかってくるので、さらにそれが評価されれば自信になると思うので、挑戦してみて損はないと思います。   Profile 青柳祥生(あおやぎ・よしき) プロダクトデザイナー 1991年生まれ/東京都在住   執筆:杉瀬由希 撮影:池ノ谷侑花(ゆかい)