――この度は受賞おめでとうございます。まず、普段のお仕事やこれまでの経歴などを教えていただけますか。

石川僕は現在ヤフーというIT企業でブランディングに関わる業務をしています。一方でヤフーという会社は副業を全面的に推奨しているので、個人でも活動しています。 最初は副業として何をやろうかと考えていたときに、学生時代からデザインコンペに出すことが好きだったので、それを始めてみました。学生のときはバイトの代わりにコンペに出していた部分もあるのですが、社会人になって感覚が鈍っていないかなと思ったところ、むしろ勝率は上がりました。SNDCも今回で4回目の受賞です。アイデアを生み出すことが普段から好きなので、SNS上でアイデアを考える人という立場で発信していまして、思いついたアイデアを日々投稿しながら、YouTubeで生まれた経緯について歌に乗せて動画にするなどしています。

「卒業記念印」石川和也

――では 「Hole Decoration」で受賞されたディノームのお二人もお願いします。

藤井大学は美術系だったのですが、建築や空間、家具、プロダクトなどを総合的に考える学科でした。大学で学んだことに近い内容でゼネコンのインテリア部門に就職し、11年間勤めた後、5年前に独立しました。現在も空間設計をメインにしつつ、建材をデザインするときに必ず出る端材などを利用したプロダクトを手掛けています。

山田私も藤井と同じ大学・学科の出身ですが、5年後輩なんです。たまたま入社した会社も同じで、先輩だった藤井と知り合いました。その後、藤井の部下になり、藤井がやっていることが面白かったので、独立の際、一緒に進むことを決意しました。。建築にも興味がありますが、プロダクトと領域を横断するという発想に共感しています。

「Hole Decoration」ディノーム 左:藤井 誠、右:山田奈津子

――今回どのようなきっかけでSNDCに応募しましたか。

藤井業界的に有名なコンペですし、空間系のポートフォリオだけでなく、プロダクト面も発信していきたかったので応募しました。実は以前も応募したことがあり、そのときは二次で落ちました。ショックも大きかったのですが、一次に通った時点で気持ちをリセットして、もう1回行くぞとギアを上げないといけないと気づいたので、今回は二次審査用のモックアップを作り込みました。

石川授賞式で見ましたが、ケーキのプロトタイプがすごくリアルでしたよね。

藤井石川さんは、今年はいくつ応募したんですか?

石川3つくらいですね。幸い2つ二次審査に入ったのですが、もう1つのアイデアが通るかなと思っていました。卒業記念印のアイデアは、準グランプリまでいくと思ってなかったんです。捉え方によってはちょっと薄いというか、ベタじゃないですか。

山田実は私たちも2作品応募していました。もう一つも最終まで入っていました。

――今回、2つの準グランプリ作品は対照的ですよね。それぞれどのようにアイデア出しをしたのか教えてください。

藤井テーマが「思いもよらないしるし」だったので、自分の身近にある当たり前に思っていることを裏返す必要があると意識しました。

石川テーマから、驚きが強いアイデアが受賞するのかなと思いました。じゃあ驚きってなんだろうと考えてみたとき、期待していないところ、着眼点が少しずらされたところにあるものかなと。期待してないときに、ふと飛び込んでくるもの、使う人の心をどう裏切るか、みたいなところが必要かなと。まさに二人のアイデアも、そうですよね。普通だったらロウソクを考えるじゃないですか。でもロウソクを刺した後のケーキに残る跡の方に着目するところにサプライズ感があるなって。 僕の場合、ハンコに見えないハンコは多分思いもよらないハンコだな、と思ったんです。だからなにかに擬態させるアプローチから考えました。なおかつ、もらったときに嬉しいシチュエーションのものと考えたとき卒業証書が出てきました。もらった瞬間にすごくテンション上がりますし、形もそもそも似ているというのにも気づいて。

藤井石川さんは今回、ビジネスデザインの面も考えていたのですか?

石川もう僕のスタイルでもあるんですが、普段からお金になりそうなアイデアばかりを考えていて……。自分がいつか商品にするときのビジネス面の説明にもなりますし、コンペも商品化や実現性を考えて評価するだろうから、将来性のある方が受け入れてもらえるだろうと。だからその辺はセットで考えるようにしています。ケーキの作品は、どんなきっかけで思いついたんですか。

藤井子供の誕生日に、家族で特注のキャラクターケーキを用意したんですね。ロウソクを刺すときにちょっと躊躇するんですが、さらに抜くときにあらためて「あ〜穴開いちゃったな」って残念な気持ちになって。そこにいたみんなに聞いても、同じように感じていました。そこで、この感覚は共通しているんだと知ったとき、空いてしまった穴が装飾の一部になれば……という流れでした。

石川ネガティブをポジティブに変えるみたいな。ロウソクを刺す行為が装飾になるイメージですよね。

藤井石川さんはこれまで4回受賞されていますが、その年のテーマによって解釈を変えるんですか。

石川いや、あまり変えていないですね。テーマから考えると、みんなスタート地点が一緒じゃないですか。そこから出発すると、マラソンみたいに同じようなところを走るから、競争率が激しい部分で考えることになるなと。だから全く関係ない葉っぱとか、海外の街の景色とか、そういうところから考え始めて、なにか面白いモチーフが見つかったら、そこで初めてハンコやシヤチハタと結びつけます。

藤井僕たちもテーマに関しては、出てきたアイデアに対して後から結び付けます。ただやっぱり事前に読み込んでいるから、潜在意識としてはずっと頭のなかにあるので、無意識に意識はしているのかもしれません。

石川それはありますね。僕も「思いもよらない」を「驚きが強い」に変換して「驚きが強いアイデアを考える」ところだけ意識していました。テーマをそのままインプットするよりは、考えやすいように分解するみたいな。



――アイデアの作り方のプロセスは、ディノームのお二人もなにかありますか?

山田全然違う言葉とテーマとかイメージとか、遠くから遠くを繋げると、その距離があるほど新しいアイデアが生まれると思っています。そういう方法から新しいアイデアが生まれるかどうかの実験をしたり、生まれたアイデアとテーマをあとからくっつけたり。

藤井どうしても自分の近いものから選択しようとするので、あえて全然違う言語と組み合わせることはしますね。エクセルで表にずらっと打って、それぞれ組み合わせてみるなど。

山田自分の経験と言葉の組み合わせもしてみましたね。

――今回のアイデアのお気に入りポイントはどこですか。

山田プロダクトの形状自体がかわいらしくて、押したときにさらにかわいい形が2段階で生まれるところですかね。

藤井授賞式で原さんが言ってくれた「ロウソクの跡まで考えてこだわったケーキを出された子供は、将来すごく幸せな感覚を持った子に育つんじゃないか」という言葉が印象的で刺さりました。

石川全然僕と違うアプローチですが、シチュエーションベースでアイデアを考えるっていうのは共通していますよね。僕も卒業式という日をもっとプレミアムなものにするためにアイテムで気分を高める、という観点から考えた部分もあります。こういう考え方は、多分みんながその状況を感じたことがあるからこそ、他の人からの共感も高いのかなと。日常のシーンを切り取って、アイデアを考えてみるのは、もしかしたらやりやすいかもしれないですね。

――仕事の合間にアイデアを出して応募するとき、どういうふうに時間を使っていますか。

石川アイデア出しに時間をかける意識はないのですが、ここまでにアイデアを出す、という締め切りは設けますね。でもアイデアは考えようと思ってないときに生まれるので、よし考えるぞ!という気持ちを持たないのもコツかもしれません。

山田机に向かってないときの方が思いつきますよね。

――2組ともモックアップの精度が高かったですが、どのように作り込んでいきましたか。

石川最初は3Dプリンタで出力したモデルに、苦労して手で全部描いてみました。皮革っぽい模様も。なかなかのクオリティが作れたと思ったのですが、後からシールの制作会社に依頼して作ったエンボスのシールの精度が圧倒的に高くて、一瞬でできたそちらを提出しました。



藤井わかります、時間かけていない方が意外と綺麗にできますよね。僕たちはなにで表現するかみたいなところから考えると同時に、どうやったらケーキに綺麗なマークが出るかの検証をしなくてはいけなかったんですね。ロウソクの形状を検討して3Dプリンターで出すと同時に、ケーキ自体や土台を作っていきました。



山田粘土も20〜30種類くらい用意して、よいものを選びましたね。

石川モック作るのが正直なところ一番苦痛でしたね……。賞状は4枚もいただいていますが、まだ商品化されたものはないんですよ。いやー、そろそろ商品化してほしいですね。

Profile : ディノーム 藤井 誠(ふじいまこと) 山田奈津子(やまだなつこ) , 石川和也(いしかわかずや)
取材・執筆 : 角尾 舞
撮影 : 加藤 雄太