中村賞
田中 夢大
Mudai Tanaka
坂上 立朗
Tatsuaki Sakagami

今回のテーマ「思いもよらないしるし」とは、意識的にしるすものではなく、何気ない日常を過ごす中で浮かび上がるものであると解釈し、私たちは「結露」という現象に着目しました。人の日常的なふるまいから生まれる、飲み物を入れたコップの結露と、自分たちが子供の頃に遊んだ「にじみ絵」の面白さ、その二つが結びついたとき、コースターのアイデアが生まれました。 「思いもよらない」体験の設計のため、何も無いところから突然色彩が生まれる状態にこだわったのですが、初めはコースター上にインクがうまく広がらなかったため、インクの仕込み方や、紙の種類などの検討を重ねました。模様自体の美しさとゆらぎのバランスを意識しながら、多くの試作モデルを作り最適な構成を探り、最終的にインクで染めた糸をコースターの内側に仕込むことで実現しました。これからも私たち自身が誇りに思えるデザインを続けていきたいです。

原賞
松本 和也
Kazuya Matsumoto

大学でデザイン学科の教員をするなかで「デザインコンペにチャレンジしましょう」と常々ゼミ生に伝えていたのですが「先生はデザインコンペやらないのですか?」と言われたのがきっかけで、ゼミ生に内緒で応募しました。 「思いもよらない」を偶然に現れた形、予想しなかった場所に現れたものと解釈し、身の回りの事象を探索しました。さまざまな事象をスマホのメモ帳に書き留めるなかで、白いシャツに付着したトマトソースの赤いシミが、まさに「思いもよらないしるし」だとはまりました。 パスタを印影として捉える際に、入れる名前は2文字がよいのか1文字がよいのか悩みましたが、実際にトマトソースを布に押し当て検証した結果、一文字の方が意図が明快だと判断しました。そのとき、通常のハンコのように文字に色が付くと想定していましたが、逆に周囲に色がついて白抜きになることに気づき、そのまま受け入れて提案しました。一次審査のパネル用の写真を撮るときは、光造形で制作したパスタとともに、本物のパスタとトマトソースを組み合わせて、リアルな表現を目指しました。また、二次審査用の模型はより完成度を求めて食品サンプルメーカーにて制作しました。

深澤賞
蘭 雲傑
Lan Yunjie

受賞作品の商品化の可能性があるSNDCの特徴に魅力を感じて応募しました。実は過去にも2回応募したのですが、今回ようやく入賞が叶いました。 最初は「思いもよらないしるし」を、普段はあまり気がつかないしるしだと捉えましたが、「思いのよらない場所にしるしをつけること」に面白さを見出し、様々なところに使えるハンコを考え始めました。 ざらざらした特殊紙や、箱の角や紙コップの円弧の面など立体的な面に押せるデザインはなにかを考え、柔らかいハンコの形状が生まれました。本体の色は直感的に選びましたが、振り返ってみると、朱肉と同じであると同時に、ポジティブでパッションのあるイメージから赤色にしたのだと思います。一番苦労したのは、二次審査の模型制作の際の材料選びです。リサーチの結果、メイク用のスポンジが柔らかく質感が良く、朱肉もつけやすく、最適だとわかりました。 大学院卒業後にフリーランスになり、自分の能力を疑ったこともありますが、今回評価されてとても嬉しいです。より自信と勇気を持って、前向きに歩んでいきます。

三澤賞
田平 宏一
Koichi Tabira
野村 紹夫
Akio Nomura

子供に対して「色は名前ではなく数値で表せるんだよ」と伝えたかったのがきっかけで、今回のアイデアは生まれました。元々5年ほど前から企画していたのですが、ふと「文房具も対象のコンテストに出してみよう」と思いたち、応募しました。30年程前にゲーム会社のプランナーとして入社し、デザイナー用に用意されていたMacで初めてPhotoshopを触ったとき「色は数値で表せる」と知ったのが衝撃で、そのときの気づきが発想源です。 苦労したのは、二次審査の模型制作です。個人でモックの制作をしたことはなかったのですが、インクの色の再現は難しかったものの、商品のように見える外観にこだわりました。子供向けということであれば、本当は色鉛筆で表現できる方がよいのかもしれませんが、商品化の場合は使用する紙を限定し、しっかりと色の再現が出来れば面白いものになると思っています。

武井賞
長堀 拓弥
Takumi Nagahori

毎年このコンペからはクオリティの高いものが多く輩出されていたので、デザイナーとしての良い力試しになるなと思い応募しました。 人は大胆に驚いたときではなく、ささやかな驚きに気づいた瞬間に「思いもよらない」と感じると解釈しました。作品と対峙したとき、ほんの少しの変化が起きるものを作りたいと思いました。古くから存在していながらも、どこか手付かずなものを再構成したいと思い、表札をデザインすることに決めました。印鑑と表札はどこか同じ気質があると感じたので、印鑑を通してシヤチハタが追求してきた堅実なモノづくりともマッチすると感じています。 模型制作の際は、内部機構のアイデアを数パターン考え、センサーやモーターの選定、可動部分のクリアランス調整を重ね、可動性と視認性を両立させながらバランスよくパッケージングするための試作検討を繰り返しました。反応はあるけれども、中がどうなっているかは秘められているブラックボックスのような、外側には見えない部分も含めて思いもよらない印象を追求しています。今回の受賞により、デザインは社会をよりよくするための職能であることを再認識する貴重な機会となりました。

特別審査員賞
樋口 優里
Yuri Higuchi

大学生活も終盤に差し掛かり「今までにやったことのない挑戦をしてみたい」と思い立ったことが応募のきっかけです。「思いもよらない」というテーマを「予想外の出来事が起こること」と解釈し、しるしに込められた意味が使い手によって思いがけない方向に変化していくプロダクトが面白いのではないかと考えました。 今回のアイデアは、自分の受験時代の体験から着想を得ています。問題集を解くとき、間違えた問題に何個もバツをつけると気持ちが沈んでしまいますが、たくさんのバツ印を「諦めずに何度も挑戦したしるし」として昇華できないかと思い、今回の提案に至りました。バツ印の印影は、かなり試行錯誤を重ねています。ただのバツだと重ねた際に単調になってしまうので、あえていびつにすることで、重ねて押した際に綺麗な星印に見えるよう工夫しました。また、全体の形状をねじれさせることで、手にフィットするようにこだわりました。最終審査の際には作品の説得力を高めるため、問題集を用いた使用イメージも加えて提案しています。 これからものづくりに深く関わっていく身として、大きなモチベーションになりました。このような貴重な機会をいただけて大変光栄です。