シヤチハタのアイデンティティともいうべき朱肉の色に染めた紙「ShachihataPAPER」で準グランプリを受賞した米田隆浩さんに、アイデアの源や開発の背景についてお話を伺いました。 ――昨年、特別審査員賞を受賞し、商品化もされた「印影」に続き、2年連続の受賞ですね。感想を聞かせてください。 去年の受賞がすごく嬉しくて、授賞式の時から次も出そうと決めていました。今回受賞の連絡をいただいた時は、準グランプリ以上はまったく念頭になくて、審査員賞のどれかかなと思っていたんです。「ShachihataPAPER」は冒険的な案だと自分でもわかっていましたから。一か八かの賭けで、一次で落ちることもあり得ると思っていたので、準グランプリだとわかった時は本当にびっくりしました。 ――「これからのしるし」というテーマから、よく“紙”を思いつきましたね。 去年の受賞作が、自分の「印影」も含めて印章に寄ったものが多かったので、その傾向を踏まえて今年はそういう案がたくさん来るだろうと読み、だったら自分は全く違う角度から提案しようと思ったんです。そうすれば、ちょっとでもライバルが減るんじゃないかという作戦もありました(笑)。 アイデアは、シヤチハタ印を何気なく紙にポンポン押していたら、印影がどんどん重なって、あ、きれいだな、と思ったのがきっかけでした。ただそれだとアート作品になってしまうので、そこからいろいろ考え、朱肉のインクで染めた紙をつくることを思いつきました。紙ならこれからいくらでもしるしを生み出せる素材なので、このテーマにも沿っているなと。ちょっと変化球ですけど、うまくはまればいいなと思って提案しました。 ――提案の仕方も効果的でしたね。朱い紙の塊は存在感がありました。 最初はこの紙を使って、名刺やブックカバーなどプロダクトに展開したものを提出するつもりだったんです。でも時間的にも技術的にもきれいにつくれそうもなかったので、いっそのこと紙ごとドカンと見せてしまったほうが、インパクトがあって目を引くんじゃないかなと。あの審査員の先生方なら、多分、朱い紙を見た時に、僕が思いつかないような素晴らしい発想をしてくださるはずだと思ったので、委ねる意味合いも込めてこういう提案の仕方にしました。実際、原研哉さんがおっしゃってくださった「手紙などに一枚添えるだけで切実な感情を表現できる」という発想は、僕にはまったくないものだったので、プロダクトにしなくて正解だったなと思いました。 ――そもそもSNDCに応募しようと思った理由は何だったのでしょう? 学生時代、『デザインの現場』にこのコンペの結果が載っていて、すごいなと思いながら見ていたんです。自分にはとてもこんな案は出せないなと。レベルの違いを目の当たりにして、悔しい思いをしました。去年SNDCが再開され、以前は力不足だったけど、今の自分だったらできるかもしれないと思ったんです。この10年で自分もいろいろ経験したので、力を試してみたかった。 僕はフリーランスでグラフィックデザインやイラストなど紙媒体の仕事をしているんです。だから、もしSNDCがガチガチのプロダクトコンペだったら、多分出品していないと思います。SNDCは、プロダクトデザインという名前はついていますが、審査員の先生方の顔ぶれを見てもわかるように間口が広く、一般的なプロダクトとは違う角度から提案できるのが面白いところ。僕はグラフィックデザイナーの視点で前回も今回も考えました。「印影」は文字のデザインなのでタイポグラフィ、「ShachihataPAPER」は紙と色でグラフィックデザイン。精度の高いプロダクトは自分にはつくれないので、アイデア勝負で、それを自分ができる方法でどうやって形にするかを考えています。   ――来年も挑戦しますか? もうアイデアを考えています。SNDCは肩書や経験に関係なく、みんなフラットな立場で挑戦できるので、すごく燃えるんですよ(笑)。第一線で活躍しているデザイナーの方と同じ土俵で戦えることはチャンスだと思いますし、審査員の先生方に認められれば自信にもなります。実は去年、このコンペに出品した時は、デザイナーとして仕事を続けていくことに迷いがあったんです。でも受賞したことが自信になり、まだ可能性があるのかなと思えるようになりました。いろいろなコンペを見ていると、2回受賞している方は結構いるんですが、3回はなかなかないようなので、ぜひ目指したいですね。   Profile 米田 隆浩(よねだ・たかひろ) グラフィックデザイナー/イラストレーター 1984年生まれ/東京都在住   執筆:杉瀬由希撮影:稲葉真