――今年のテーマ“「   」を表すしるし”は、カギカッコの中に当てはめる言葉によって、「しるし」をさまざまな角度から捉えることができるテーマだと思います。喜多さんならどんな言葉を入れますか? 5つほど考えました。真っ先に思い浮かんだ言葉は、「原点」。あるいは「元」という字を当て、「元点」と表してもいいかもしれません。2020年は世界中の人々にとって苦難の年でした。今年はその試練を乗り越え、次の局面に向かって新たな一歩を踏み出す再出発の年であり、ニュースタンダードの社会をつくっていく大事な元になるという意味で「原点」。あとはそれに付随して、「思い」「目標」「希望」「決心」といった言葉が思い浮かびました。未来に向けていまから前へ進んでいこうというポジティブな気持ちが、自分の中に強くあるのかもしれませんね。 ――ニューノーマルに対応した再出発をどのようにしていくのか。それを問われているいまの時代の「しるし」を考えるということですね。 いいま、私たち人類は、地球温暖化、核兵器、海洋ゴミ、生物多様性の保全、そして新型コロナウイルスや停滞した経済の再生など、さまざまな社会問題に直面しています。今年はアメリカの政権も代わりましたし、いろいろな意味でこれからどうするのかを考えていかなければいけない。その出発点、つまり「原点」であるいまを残していく「しるし」があれば、非常に意味のあるものになるのではないかと思います。 社会は個人と深くつながっていて、個人の集まりが地域になり、国になり、世界をつくっている。そう考えると、個人はひとつの点であり、個人もまた「原点」と言えます。社会を考えることは、人を考え、自分を考えること。最終的にはすべて人に帰着します。こんな時代だからこそ私たちは原点に立ち返り、そこから何を、どうしるしていくのかを考える必要があるのではないでしょうか。 ――ご自身は、今年はどのような「目標」を持っていらっしゃいますか? 日本の原点のようなところと、何かつながった仕事ができたら面白いなと思っています。もうひとつは、やはりモノづくりを生業としているので、ヒット商品や多くの人に求められるモノとはどういうものだろう、というところを追求していきたいですね。それにはやはり暮らしを考えることが大切だなと。自然とつながる暮らしや、仲間とつながる暮らし、世界とつながる暮らし、いろいろありますからね。 ――特にいまは人や自然とつながるということがなかなかしにくい状況だと思うので、このコンペティションやデザインを通して、そういうところに寄与できるといいですね。 オンラインも含めて人と人とのコミュニケーションは、これからますます重要になってくると思います。画面越しでも相手の目を見ながら話ができると、実際に会ったような気がするものですし、心が通じ合いますよね。しかも何千キロ離れていようが、一瞬にして距離が縮まる。これは素晴らしいことだと思います。こういうオンラインのコミュニケーションにも、デザインにできることがまだまだあるような気がしますね。 ――では最後に、SNDCに応募されるクリエイターの皆さんへ一言お願いします。 これまでの受賞作や傾向など、過去の情報に捉われないほうがいいと思います。そういうことは全部、一度頭から取り払って、自分の原点に戻って考えてみる。そこからひらめいたことに自分の思いをぶつけていくのも、ひとつのやり方だと思います。 聞き手:田尾圭一郎(美術出版社) 構成:杉瀬由希