二組ある準グランプリ受賞者の一人である塚本裕仁さんは、企業でデザイナーとして働きながら、今回の作品を制作しました。授賞式で「現代アートのよう」とも審査員の原 研哉氏も評価したヤバ印の制作背景を伺いました。

―― 改めておめでとうございました。今回、準グランプリという評価についてどう感じていますか?

正直なところ、このような賞をいただけるとは思っていなかったので驚きました。自分の案はちょっと、このコンペティションとしては、ポエティックなアイデアなので、審査員の目にどのように映るか少々不安だったのですが、こちらの意図を丁寧に汲み取って評価いただけたのがとても嬉しかったです。また、それに加え自分でも見えていなかった提案の本質を見出してこのアイデアの良いところをさらに引き出していただいた印象でした。

―― 今回SNDCに応募しようと思ったきっかけは何ですか?

普段は企業のインハウスデザイナーとして働いていますが、学生時代のように自由にアイデアを考えたり、企画から立ち上げたりする機会が減っていて。それで、デザインコンペティションに応募するようになりました。なかでもSNDCは尊敬するデザイナーの方々が審査員を務めているので、受賞を目指してチャレンジしたいなと思い、応募しました。実は前回も応募していたのですが、今回ようやく結果に結びつきました。



―― 今回のテーマは「こころを感じるしるし」でしたが、どんな風にそれを解釈されましたか?

まず、すごく難しいテーマだなと、取り組んでみて感じました。「こころ」からは少しずれるかもしれませんが、最初に日本の特有の文化や日本語の表現から発想をスタートして、そこから「やばい」とか「すごい」とか、一つの言葉で複数のニュアンスを持つような言葉に注目していきました。

―― 語尾の表現も面白いですね。

ありがとうございます。最初は記号ではなくて顔文字などを試していましたが、カジュアルすぎたので最終的に記号になりました。

―― 今回一番大事にしたことや、こだわったところがあったら教えてください。

コンセプトをピュアに伝えることに注力しました。実は、一次審査のプレゼンテーションシートと、二次審査の実物審査とではプロダクトの形自体を変えています。
一次審査のものは綺麗に外装をカバーリングしている反面、スタイリング要素に目が行く懸念がありました。そこで、あえて回転印という馴染みある形のほうがよりアイデアの肝が伝わるのではないかと考えました。また、この提案の訴求ポイントの一つは、現代的なものとクラシカルなものの融合なのかなと思っていて。古典的な回転印の外観の方が、良さが際立つと考えて、事務局にもメールで相談して形状を変えました。


応募時と最終審査会のプロダクトイメージ

―― たしかに、よりアイデア部分に目がいきますよね。では悩んだことや、苦労したことはありますか?

そもそも「やばい」にたどり着くまでが長かったです。ボツ案としては、「福笑印」もありました。これも回転印のアイデアなんですけど。顔文字がスロットみたいに変わるんです。目と口の部分が回転して、顔が入れ替わって、偶然できた顔を楽しむみたいな。でも調べると既出のアイデアだったのでボツになりました。

―― 過去には別のコンペティションでも受賞されていますが、提案のスタイルはあるのでしょうか。

今回の提案は実はこれまでしてこなかったアプローチというか、自分らしくないなと思いながら出したところもあって、ちょっと自信がなかったんです。以前受賞したものも含めて、既存のものを少しずらして価値を生むようなアイデアが多いのですが、今回は課題解決はしていません。原さんが「現代アート」と表現していたように、このプロダクトを通して新しい価値観を与えたり、改めて「やばい」っていう言葉について考えたりさせるような、問題提起的なアプローチが自分としては新しい試みであったと感じています。

―― 評価されたことで、新しい自信にもつながりましたか?

そうですね、自信にはなりました。商品化にかなり重きを置いているコンペティションだと思っていたので、課題解決じゃないアイデアを受け止めていただけたのがうれしかったですし、自分としてもいつもの型通りではないアプローチで結果が残せたのは良かったです。

―― これからも作品は基本的には一人で作っていくのでしょうか?

現時点では一人で取り組むことが多いですが、今回の授賞式でもチームで結果を出している方々を見かけて、やっぱり羨ましいなと感じました。いいご縁があれば、今後はチームでもなにかやってみたいです。

取材・執筆:角尾 舞