第16回シヤチハタ・ニュープロダクト・デザインコンペティション(SNDC)は、前回を大きく上回る1287件の提案が集まりました。 テーマの『思いもよらないしるし』の解釈は、偶発的に起きる出来事や、見落としてしまいそうな瞬間などさまざまでしたが、造形的なデザインだけでなく行為に焦点を当てた提案も多く、審査会は議論が白熱しました。
また初めての試みとして、ゲスト審査員の制度を設けました。今回はエンジニアの武井祥平氏を迎え、デザイナーとは違う視点が審査に加わったと同時に、応募アイデア自体の傾向として、テクノロジーを活用する提案も増えた印象です。最終審査会に可動するモックアップが数多く集まったのも新鮮でした。
シヤチハタらしいハンコをベースにしたアイデアから、全く新しいプロダクトまで、多様な可能性のある提案の応募を感謝いたします。
中山 大暉
Hiroki Nakayama

出合いの瞬間の「お!」をしるせるデバイスです。自転車での移動中に見つけた、いい感じのカフェ、素敵な景色など、心が揺さぶられた瞬間に「!」ボタンを押すだけで、急いでいても両手が塞がっていても、その場にしるしを残せます。連動するアプリ上には自分だけの地図ができあがります。

インターネット上のしるしの提案は毎年一定数ありますが、絵に描いた餅の印象が多く、評価しづらかった。しかしこの作品は実装できるイメージもありますし、実際の空間でポンと押す感じがちょうど良いです。最近自転車を買ったので、内蔵してほしいと思いました。(中村)
自動的に位置情報がマーキングされることとは違う、しるしをつける快感があります。心の中のさざ波を感じながら、自転車ハンドルを持った手のままでプッシュするという一連の行為が合致していて、デバイスとして気持ちいいものができそうという、審査員の意見に賛同しました。ビックリマークというアイコンも、ふさわしいと思います。(原)
気づきのポイントの瞬間に押せるというのがすごい。記憶しようとしても自転車のスピードでは「あ」と思っているうちに通り過ぎてしまうから、「あ」の瞬間に押せるのがいい。(深澤)
レンズ越しではなく、肉眼でシャッターを切るところが新鮮だと感じました。画面を見て撮るのではなく、目の前の風景である「今」をスタンプする感じにリアリティがあります。 しるすという捉え方が柔らかく発想がユニークで、まさに思いもよらない、でした。(三澤)
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藤井 誠
Makoto Fujii
山田 奈津子
Natsuko Yamada
チーム名 : ディノーム

ロウソクの火を吹消した後に、ロウソクを抜くと生まれてしまう、ケーキの上の穴。せっかくのお祝いのケーキにできてしまったその穴を、装飾の一部にしてしまうキャンドルホルダーの提案です。ロウソクをケーキに挿すという行為に、しるす感覚を加えたいと考えました。

キャンドルを立てた後に残る花の形が非常に繊細に設計されており、出来栄えに感心しました。子どもほどきっと驚きは大きくて、まさに予測もしなかった、想像を超えた効果が生まれるんじゃないかな。小さいけど、子供の感受性に訴えかける力は大きいと思います。(原)
ロウソクを抜いた後のちょっとイヤだなという気持ちはもはやどこか諦めていましたが、その感情をプラスに変えてくれることが、思いもよらない嬉しさにつながります。(武井)
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石川 和也
Kazuya Ishikawa

卒業式に先生から手渡される初めての印鑑。多くの学校では卒業のタイミングに印鑑が記念品として選ばれるが、その際に最適なデザインを考えました。彼らの門出を祝って贈られるのは、卒業証書に模した印鑑です。

卒業式の高揚した気分で、あのハンコがあるとすごく売れそうだなと思いました。デザインコンペで商品性はあまり評価されませんが、それを超えてかなり鮮やかです。デザイン的にはベタだけど、計算していいとこついていると思います。(中村)
ずっと使っていた印鑑が、中学校の卒業式でもらったものでした。私のはプラスチックケースで味気ないものでしたが、卒業証書の筒に入っていて時間の経過とともに年季が出て、愛着もより大きなものになるだろうと温かなイメージが膨らみました。(三澤)
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中村賞
田中 夢大
Mudai Tanaka
坂上 立朗
Tatsuaki Sakagami

コップに付着した水滴が落ちることで、にわかに色づき、美しい模様が広がるコースターです。その日の気温などによって、一度きりの模様が現れます。普段は気に留めない結露という現象がしるしとなって、日常に思いがけない彩りをもたらします。

偶然に生まれる模様みたいなものが、基本的に好きです。コースターが濡れたことを利用して模様を作るというのは、確かにありそうなアイデアではあるけれど、やっぱり毎回違う思いもよらない形が生まれるという点は、すごく面白いと思います。(中村)
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原賞
松本 和也
Kazuya Matsumoto

トマトソースをこぼしてしまった、テーブルクロスや白いシャツ。シミをじっと眺めていると、まるで朱色のしるしのように見えてくるかもしれない。慌てて拭きとる前に、ネガティブな出来事をポジティブに楽しめる「なまえのあるパスタ」をデザインしました。

確かに「思いもよらない」印だと思いました。パスタは小麦粉からできているのでかたちは自在、押し出し成形でこんな名前入りのパスタができると楽しいかもしれません。林家のパーティか、シェフの名前か、お祝いか。ロットはどれくらいから可能でしょうか。(原)
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深澤賞
蘭 雲傑
Lan Yunjie

柔らかい素材でできたハンコです。一般的にハンコは平面に押すことが多いものですが、この提案では紙箱の角や凹凸のある面などにフィットし、立体的に印字できます。ハンコの使い方の可能性を広げ、思いもよらないところにしるしがつけられるかもしれません。

子供が喜ぶ感じや、ぽんぽんぽんって軽やかに押す感じ、全部が入っていると思いました。今までの印鑑やスタンプは、慎重に的確にという視点が多かったけれど、そうじゃないんだなと。やたらめったらやっていいんだ、と。素材も形も色もあってます。(深澤)
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三澤賞
田平 宏一
Koichi Tabira
野村 紹夫
Akio Nomura

小学生からパソコンに触れ、プログラムを学ぶ昨今。普段目にする色の名前ではなく、RGBで色を表す水性ペンによって、色の仕組みについて学習する効果もあります。

ペンは色名に情報のイメージがありすぎて、たとえば緑だと葉っぱを描いてしまうような、引っ張られてしまう感覚もあるのですが、RGBだとその意識が変わるなと思いました。CMYKではなく、RGBというところに良い引っ掛かりがあります。(三澤)
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ゲスト審査員賞
長堀 拓弥
Takumi Nagahori

防犯意識の高まりから表札を掲げない住宅が増えていますが、本来は家庭のシンボルとしての役割も持ちます。この表札は普段は平滑な状態で住宅の景観に溶け込みますが、訪問者が来るとセンサーに反応して名前が現れます。現代に合わせた表札のかたちです。

表札で自分の名前を知られたくないという問題意識はありつつも、試作品を見て「きっとこういうものを作ってみたかったんだろうな」と感じてしまいました。ものづくりへの純粋な情熱や発明家精神のようなものにあふれたプロトタイプが、素敵でした。(武井)
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特別審査員賞
樋口 優里
Yuri Higuchi

同じ問題を何度も間違えると、気持ちが落ち込むかもしれません。この提案は、バツ印の印影を重ねることで、それらがきらめく大きな星へと変化していくスタンプです。本来否定のしるしであるバツが、星という希望にみちた「思いもよらないしるし」となります。

中高生の勉強に関わるアイテムはほとんど出していないのですが、商品としてとても可能性があると思いました。問題集で繰り返しできなかった部分に、2回目、3回目…としるしをつけるようなアイテムは世の中になかった気がします。(舟橋)
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