二組ある準グランプリ受賞者の一人である塚本裕仁さんは、企業でデザイナーとして働きながら、今回の作品を制作しました。授賞式で「現代アートのよう」とも審査員の原 研哉氏も評価したヤバ印の制作背景を伺いました。

会わないからこそ伝わること

パンデミック以降、人と会う機会は減りましたが、会話は減っていません。対面で話す方が気持ちが伝わると言われがちですが、僕は最近むしろ逆だなと思っています。会って話すと表情や動作など、すべての態度が見える分、対話自体の内容は薄くなることもある。ショートメッセージやSNSを通じたやり取りでは、たしかに相手がどういう状況にあるのかはわかりません。相槌を打ってくれているのか、どんな表情なのかもわからない。それを僕たちは、メッセージの句読点や、「!」や、絵文字などの些細な表現から推し量ります。そういう小さな、ある意味では容易いコミュニケーションのしるしが、意外と人間の心に響くのだなと感じているんです。 インターネット上のやり取りは、ウソをついたり取り繕えたりするようでいて、あらわになる部分もあります。ビジネスレターであっても、文面からその人の優しさやインテリジェンスが伝わることもあるでしょう。逆にこの人とは一緒に仕事ができないだろうと感じてしまうこともある。むしろ、会って話していたら分からなかっただろうと思うときもあります。もちろん文面だけでは誤解もあるだろうし、妄想みたいな部分もある。本当かどうかわからない危うさがあります。それでも、そこにある対話はまぎれもない事実であると感じるんですよね。どうでもいい言葉に傷つくのはもちろん、丁寧な返信が意味深な気もしてしまう。これは今までとは違う、全く新しい関係性だなと感じています。会えないとか、会話が少ないとかによって、人間のつながりを太いものにしている部分は大いにあると思います。