今年で17回目を迎えるシヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティション(SNDC)には、昨年に続き国内外から1,538件という多くの提案が寄せられました。 今回のテーマは「可視化するしるし」です。記録されない日々の出来事やささいな変化、誰も気に留めないような瞬間の中にある「しるしかもしれない」ものを捉えたアイデアを募集しました。
テーマが「可視化」という抽象的なものだったためか、例年に比べてさまざまな角度からの提案が集まり、受賞作品の顔ぶれも彩り豊かなものになりました。回を重ねるごとにしるしの捉え方は拡張を続けていますが、今回はずっと視界に入っていたけれど誰も気づかなかったしるしを掘り起こすような提案が多く集まった印象です。
今まで意識されることのなかった場所にしるしの気配を感じ取り、新たな在り方をご提案くださった方々に、こころよりお礼申し上げます。
榎本 千紘
Chihiro Enomoto

紐を引くとパンッと音が鳴り、名前がひらひらと宙を舞う。主役の名前のしるしをしのばせることで、少し特別なサプライズを仕掛けられるパーティークラッカーです。誕生日でも、結婚式でも、授賞式でも、名前で主役を引き立て最高の瞬間を作り出す、めでたいしるしの提案です。

対象にしている時間軸が他の応募作品と全く違うのがよかったです。審査員にとって未開拓の領域での発想だったので、その分鮮度の高い驚きを与えてくれた作品だと思います(中村)
紙吹雪という空間に作用するものの中に、しるしの形を使って人の名前を押印するのは新しいハンコの発見だったと思います(原)
しるしがパーティーグッズにもたらす新しい価値を見つけたところがポイントです。SNDCが求めるものをわかった上であえて別の方向を狙った、高度な気づきのある作品だと思います(深澤)
真剣なシーンで使われることが多いハンコに、直感的な喜びの機能を発見したのが面白いです。素材をもっと浮遊感のあるものにすれば、さらに華やかに祝えそうです」(三澤)
しるしを入り口にこの形に辿り着く想像力がすごい。
入っていた名前が『岡崎』だったので紐を引いた瞬間、嬉しさと恥ずかしさとこれは何なんだ?という気持ちが同時に押し寄せてきました(岡崎)
受賞者インタビューを見る
須田 紘平
Kohei Suda

真っ白なノートを見つめる人の瞳には、これから書こうとする言葉の輪郭がうっすらと見えています。「芽吹きかける想い」は、そんな未形成な想いをひとつのしるしとして可視化したノートです。ユーザーは曖昧な想いを輪郭のあるしるしの上に記述することで、本当の想いを描き出していきます。

白さはノートの価値でもありますが、高い緊張感をもたらすものでもあります。ノイズに満ちたこのノートは着想の一歩手前の頭の中に似ていて、イマジネーションを投影しやすい対象だと思います」(原)
図書館のざわめきのように、自分が書く文字以外の存在が思考を刺激してくれているように感じました。白い紙に向き合う時とは異なる、新しい書くという体験ができそうです(岡崎)
受賞者インタビューを見る
松本 和也
Kazuya Matsumoto

運動会のお昼休憩。みんなでおにぎりを食べる時間が楽しみなんだけど、大好きな鮭だと思って食べてみたら梅干しだった、なんてことはありませんか?「なかみのそとみ」は、おにぎりの具材のパターンを印刷したアルミホイル。具材に合わせた包装で中身を可視化する、新しいしるしの提案です。

おにぎりは包み紙をむいて食べるので、中身と包みの形が密接に関係しています。そこを活かして具材である鮭の表皮をむきながら食べるような体験を作ったのが面白いです。『なかみのそとみ』というタイトルもいい(中村)
ありふれたおにぎりによくこの解答を見つけたなと思うと同時に、ありふれているものこそ、これくらい高いクリエイティブ力を持っているべきだと感じました(深澤)
受賞者インタビューを見る
中村賞
中道 咲花
Sawa Nakamichi

「結束水引」は、相手を思う気持ちをさりげなく表現するしるしです。ちょっとしたお土産を渡したい時や借りた物を返す時、ふつうの紐やリボンではなく、結束水引を使うことで、ありがとうの想いに輪郭を結びます。少しの手間で相手への気持ちを表す、こころを可視化するしるしの提案です。

結束バンドのハードな質感に水引を合わせたのが面白いです。今回のテーマに完全に呼応しているかと言われると悩みますが、完成度の高さに目を惹かれました。袋を縛る時にリボンではなく、こういうデザイン性の高い結束バンドを使うことで、さりげなく気を利かせられそうです(中村)
受賞者インタビューを見る
原賞
江上 恵一郎
Keiichiro Egami
舟橋 慶祐
Keisuke Funahashi

各面のグラデーションによって折り目というしるしを可視化した折り紙です。グラデーションは紙の重なりで生じる影を強調し、完成品をより立体的で趣のある印象に仕上げます。折り目を線ではなく、さらなる効果を生むしるしに作り替えるアイデアです。兜や風車など他の折り紙にも展開が可能です。

折り目というしるしに陰影を纏わせることで平面、立体、プロセスのすべてに見どころが生まれています。特に折ることで陰影を統合し、ひとつのグラデーションを形作りながら完成させていくプロセスはよくできていると思います。完成品もグラデーションの効果で凜としていて美しいです(原)
受賞者インタビューを見る
深澤賞
楠 天童
Tendo Kusunoki
楠 麻耶
Maya Kusunoki
チーム名 : KUSU-KUSU

“視えない”時でも触れば“わかる”ように。照明のスイッチやリモコンのボタンなどに、透明なインクで半立体の触れるしるしを押せるハンコです。もの自体の印象を変えることなくしるしを付けることで、一般の人や字の読めない子ども、触覚を拠り所にしている人などさまざまな人を優しくガイドします。

どのスイッチがどの照明に繋がっているか、どれが醤油の瓶でどれが濃口醤油の瓶かなど、はっきり識別をしないままにしている多くのものを、一押しで差別化できる優れたプラットフォームになりそうです。ハンコというプロダクトの簡便さを活かせば商品として化けるのではないでしょうか(深澤)
受賞者インタビューを見る
三澤賞
東出 和士
Takashi Higashide

スポンジに含まれたインクが印面へと浸透し、─バネ式のギミックを伝って形をしるす。シヤチハタ印には、シンプルでありながら無駄のない洗練された構造美があります。そんな中身をあえて見せるデザインで、シヤチハタ印というプロダクトがもたらすわくわく感や押印する楽しみを可視化しました。

手に取った時に『これは可視化して欲しかったもののひとつだ』と感じました。スケルトンの商品は既に世の中に溢れていますが、シヤチハタ印の内側は言われてみれば確かに見たかったと思うものであり、それを素直に開示する潔いアイデアだと思います。モックアップの精度も高かったです(三澤)
受賞者インタビューを見る
ゲスト審査員賞
長谷川 泰斗
Taito Hasegawa
山下 采夏
Ayaka Yamashita

手紙の最後にイラストや笑えるひとことなど、見つかったら嬉しいしるしを残したくなるのは忍者の歴史を持つ日本人の特性でしょうか。「どこかにみつかるしるし」は箱の角や隅にこっそりしるしを残せるハンコです。宅配便の隅などに押して、見つけて嬉しい、見つかって嬉しい、そんな瞬間を作ります。

しるしは本来何かを知らせるためにあるものですが、これは微妙に隠れているところが面白いです。例えば部屋のどこかに、過去の自分が押したこのしるしを発見したら思わず微笑んでしまいそうです。大きな意味はないけれど、小さな豊かさを生むユーモラスなアイデアだと思います(岡崎)
受賞者インタビューを見る
特別審査員賞
山本 晄暉
Hikaru Yamamoto

かじることで隠れた文字が可視化されるチョコ─レートです。誰かに感謝を伝える時に“ありがとう”のもじちょこを渡せば、かじった時にありがとうが文字としてふたたび相手の元に届きます。文字や言葉、想いを食べるという行為の中に可視化する、スイーツを素材にしたしるしの案です。

気の利いた面白い気持ちの伝え方ができそうです。大切な人に想いを込めて贈れば、チョコレートの甘さとともにメッセージが現れ、ウィットに富んだ気持ちの伝え方になるのではないでしょうか。メッセージや言葉を工夫することで、いろいろなシーンで活用ができると思います(舟橋)
受賞者インタビューを見る